生きがいラボ株式会社

時差出勤した分の賃金カットは可能か?

16.05.26
ビジネス【労働法】
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妊娠中の女性従業員から「通勤ラッシュを避けるため、勤務時間を短縮してほしい」と申出がありました。

当社の就業規則には、「原則として1時間の勤務時間の短縮または1時間以内の時差出勤を認める」という規定が存在します。

この場合、時間分の賃金カットは認められるのでしょうか?
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<労務提供なく無給で可。ただし早退や遅刻とは別扱いに> 

男女雇用機会均等法では、「保健指導等に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更等必要な措置を講じなければならない」と規定しています(13条)。 

具体的な措置内容は、指針(「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導または健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」平成9・9・25労働省告示105)で示されています。 

基本的には、「母体または胎児の健康保持に影響があるとして、医師または助産師により通勤緩和の指導を受ける」ことが要件になります(上記告示)。しかし、医師等の指導がなければ申請を却下できるかといえば、そうではありません。 

なぜなら、女性が積極的に意見を求めない限り、「医師等は妊娠中の女性労働者が通勤に利用する交通機関の混雑状況を知り得ないため、具体的な指導がなされない」ケースも少なくないためです(平成9・11・4女発36号)。

女性従業員から申出があった場合に限り、「事業主は、担当の医師等と連絡を取り、その判断を求める等適切な対応を図る」必要があります。 

もちろん、混雑が激しいことが明らかなら、医師の判断を求めるまでもなく、直ちに時間短縮を認めるという対応も可能です(東京近郊の通勤事情を考えれば、むしろ、このパターンが多いでしょう)。 

会社は、就業規則により「通勤緩和措置を講じる義務を負う」点を明らかにしています。この場合、会社は短縮時間に応じた賃金カットを行えるのでしょうか。 

均等法は勤務時間の変更等の措置を義務付けるのみで、賃金の取り扱いには言及していません。労使が話し合って一定のルールを定めておくべきですが、労務の提供がない時間帯については無給でも差し支えありません。 

女性従業員は、「時間短縮が認められても、無給では何のメリットもない」と感じられるかもしれません。しかし、均等法第13条に基づく「通勤緩和措置」等を理由とする不利益取り扱いは禁じられています(均等法9条3項)。 

通常の遅刻・早退であれば、会社から低評価を受け、処遇面で不利益を被る恐れがあります。しかし、妊娠中を理由とする勤務時間短縮であれば、そうした気配はありません。


現場で気になる労働法Q&A


【記事提供元】 
安全スタッフ2015年5月15日号