給与を投資と位置づける
そこで考え出したのが、給与を社員さんご本人の申告にもとづいて決定していく「自己申告型給与制度」です。
今回から数回にわたって、当社で設計のサポートをしている「自己申告型給与制度」の考え方について、ご紹介していきたいと思います。
■給与制度の前提となっている考え方
給与は、一般的に「労働の対価」として支払われます。
このことは、従来型人事制度も米国型ノーレイティングも同様です。
もちろん双方とも、実際の運用では生活保障的な意味合いでも給与が支給されていますので、労働の対価とは言えない部分もあります。
しかし、本質的に給与制度が目指しているのは、「組織成員の貢献を金銭的価値に置き換える」ということです。
このコンセプトは、2つの前提のうえに成り立っています。
1つ目は、社員さんの貢献を数値化することが可能だという前提、
2つ目は、金銭的報酬によって社員さんのモチベーションが上がるという前提です。
しかし、この2つの前提が間違いだということは、このメルマガのなかでこれまでにお伝えしてきた通りです。
実際には、社員さんの貢献を完全に数値化することは不可能ですし、仮に数値化できたとしても、その数値によって決定した給与によって社員さんのモチベーションは上がらないのです。
■給与制度の前提そのものを変える
米国で導入が進んでいるノーレイティングは、この点に気づき、組織成員を画一的な基準で「査定」することを廃止し、給与決定の裁量を管理職に一任しました。
しかし、給与を「労働の対価」と位置づけている限り、2つの前提の延長線上であることに変わりはありません。
給与を「労働の対価」と位置づけること自体を変えなければならないのです。
では、どのように位置づければ良いのでしょうか。
この問いに対する答えが、給与を『投資』と位置づける、という考え方です。
ここで、いろいろな意味で使われる「投資」という言葉を、どのようなイメージで使っているのかについて共有しておきたいと思います。
投資家の関心事は、投資収益率です。要は「どれだけ儲けるか」を考えています。
だから、人員削減計画を発表すると、株価が上がったりします。
しかし最近は、社会貢献を志向する組織に投資することで、長期的なサポートを行う投資家も増えています。
私が「給与=投資」と定義するところの「投資」のイメージは、当然ながら後者です。
デイトレード的な収益のためだけの投資ではなく、事業を育てるための長期投資のイメージで「投資」という言葉を使っています。
私が、「投資」という言葉には誤解が生じる可能性があることを承知のうえで、それでも「投資」という言葉を使っているのは、この「投資」という考え方は、組織側だけではなく、組織成員一人ひとりに必要となる考え方でもあるからです。
その考え方とは、下記にある「給与=投資」に込めた3つの意味になります。
① 未来志向:過去の実績ではなく、未来の貢献によって給与を決める
② 総合判断:一人ひとりを、部分的ではなく全体を総合的に評価する
③ 自己申告:社員さんから組織に対して、自分の貢献や給与を申告する
次回から、一つひとつの項目について解説していきます。