米国型ノーレイティングの課題
前回にもお伝えしましたが、新しい手法が現れると、それが問題を解決する特効薬のように紹介されることがありますが、どのような手法にも課題はあるものです。
特に、米国のグローバル企業を中心に採用されているノーレイティングは、米国とは事情の違う日本の中小企業でそのまま導入するのは課題が多いと考えます。
今回から数回にわたって、米国型のノーレイティングの課題を挙げ、次にその課題の解決策を提案していきたいと思います。
■米国と日本では事情が違う
私が考える米国型ノーレイティングの課題は、下記の3つです。
① ある程度は実力に見合う給与が支払われている必要がある
② 管理職に高いスキルが求められる
③ 本質的には給与の決定プロセスが変わっていない
1番目の課題は、米国型ノーレイティングでは、現状でも実力に近い給与が支払われている必要があるということです。
米国型ノーレイティングでは、制度によって社員さんの点数づけやランクづけを行わない代わりに、管理職が部下の給与を決定することになります。
ここで問題になるのが、社員さん一人ひとりが、自分の給与額に対してどれだけ不満を抱えているかということです。
当然ながら、現状において給与額への不満が非常に大きい場合は、管理職が給与を決定するノーレイティングに移行すれば、自分の給与額への不満は管理職への不満に転化します。
さらに言うと、米国型ノーレイティングを導入している企業の多くはグローバル企業であり、元々の給与水準が高いということがありますし、米国は職種別の労働組合が発達したという歴史的な経緯があったり、雇用契約も職種に対しての契約であったりするので、職種によっての給与相場が見えやすいという事情があります。
これらのことから、ノーレイティングを導入している米国の企業の多くは、従来から職種別の労働契約に基づいた実力主義・成果主義の人事制度を運用することによって、実力に応じた給与額になっており、給与額への「不公平感」が少なかったと考えられます。
ちなみに、ここで「不公平感」という言葉を使ったのは、給与額への「不満」、つまり「もっと高い給与がほしい」という感覚はあったとしても、「今の自分の職種と実力ならこれぐらいでも仕方ない」という「理解」があったという意味です。
そのような事情で、米国のグローバル企業には、従来型人事制度による過去実績の点数づけやランクづけなどの議論に時間を費やすより、目標を達成するための対話に時間を使った方が建設的だというノーレイティングのコンセプトが機能しやすい背景がありました。
当然ながら、日本の中小企業では事情が違います。
私の経験上でも、日本の中小企業では、まだまだ属人的な要素(年齢や入社年数)が給与決定に影響を与えている場合が多く、実力に見合っていない給与になっているケースがたくさんあります。
このことは、米国型ノーレイティングを導入するときに、検討しなければならない課題だと思います。
次回は、課題の2つ目について解説したいと思います。