在宅での看取りに対応!『在宅緩和ケア充実診療所』の届出を行うには
終末期の患者とその家族を支える「在宅緩和ケア」へのニーズが高まっています。
2016年の診療報酬改定では、こうしたニーズの高まりに応えるため、「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」が新設されました。
この加算を届け出た診療所は「在宅緩和ケア充実診療所」として扱われます。
加算は施設規模を問わず、どのクリニックでも届け出ることができますが、求められる要件が非常に厳しく、現状では在宅緩和ケア充実診療所の数も多くありません。
高度な緩和ケアを在宅で提供できる在宅緩和ケア充実診療所の施設基準や、届出によって得られるメリットなどを解説します。
在宅での看取りに対応するための医療体制
終末期に自宅を療養場所として希望する人の数が増え続けており、厚生労働省の調査によれば、2008年時点で60%以上の人が「自宅で療養したい」と回答していることがわかりました。
在宅での看取りは、住み慣れた環境で家族と共に最期を過ごしたいという「自分らしい生き方」への意識の変化が背景にあります。
また、国も地域包括ケアシステムの拡充を通して、在宅医療の推進を強く打ち出しています。
しかし、在宅での看取りは、患者が自宅で穏やかに過ごせるという大きなメリットがある一方で、急な容態の変化に対応できる医療体制が不可欠です。
24時間365日の緊急対応や、専門的な緩和ケアの提供が可能な在宅医療機関の必要性は年々高まっています。
そのなかで、近年は「在宅緩和ケア充実診療所」を目指す診療所も増えてきました。
在宅緩和ケア充実診療所は、厚生労働大臣が定める施設基準を満たし、「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」の届出を行なった診療所のことを指します。
つまり、在宅医療のなかでも特に、終末期医療や緩和ケアにおいて、より高度で専門的なサービスを提供できる体制が整っている診療所の証でもあります。
在宅緩和ケア充実診療所届出のための要件
在宅緩和ケア充実診療所として届出を行うための施設基準には、以下のような厳しい要件を満たす必要があります。
まず、「機能強化型の在宅療養支援診療所(機能強化型在支診)」として届け出ていることが前提となります。
機能強化型の在宅療養支援診療所とは、高度で安定した在宅医療を提供できる体制を整えた診療所のことで、複数の医師による診療体制や24時間365日の対応が可能であることを意味しています。
そのうえで、過去1年間の実績として、「緊急の往診件数が15件以上」かつ「看取り実績が20件以上」であることが求められます。
これは、緊急時における迅速な対応能力と、多くの患者の最期を看取ってきた経験が評価されるものです。
また、疼痛管理に関する専門性も重要です。
具体的には、末期の悪性腫瘍などの患者に対して、経口鎮痛剤では痛みが改善しない場合に、患者みずからが注射によってオピオイド系鎮痛薬の注入を行う鎮痛療法を、過去1年間に2件以上実施した実績が必要です。
または、過去に5件以上の実施経験がある常勤医師が配置されており、適切な方法でオピオイド系鎮痛薬を投与した実績が、過去1年間に10件以上あることが求められます。
さらに、緩和ケアに関する専門知識を持つ医師の配置も不可欠です。
「緩和ケア病棟」または「在宅での1年間の看取り実績が10件以上の医療機関」において、3カ月以上の勤務歴がある常勤医師がいることに加えて、「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会の開催指針に準拠した研修」または「緩和ケアの基本教育のための都道府県指導者研修会等」を修了している常勤医師の在籍が要件となります。
最後に、患者への情報提供も義務づけられています。
院内などにおいて、過去1年間の看取り実績や、十分な緩和ケアが受けられる旨を掲示するなど、必要な情報が適切に提供されている必要があります。
このように、認定要件は非常に厳しく、すぐにすべての要件を満たすことはむずかしいかもしれません。
しかし、届出を行うことで緊急往診や夜間・休日往診、在宅ターミナルケア加算など、特定の診療報酬において加算を受けることが可能となり、経営面での安定化にもつながります。
施設基準に係る届出を目指すのであれば、実績を重ねることが何よりの近道です。
日々の診療において、終末期の患者や家族とのコミュニケーションを密にし、在宅での看取りを希望する患者や家族がいれば、積極的に支援していく姿勢が大切です。
※本記事の記載内容は、2025年9月現在の法令・情報等に基づいています。