生きがいラボ株式会社

普及が進む『チップ制度』のメリットとデメリット

25.09.02
業種別【飲食業】
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近年、飲食店などで使われているモバイルオーダーシステムに、お客が任意でチップを支払う機能が搭載されたことが大きな話題となりました。
従業員のモチベーション向上や収入増につながる可能性のあるチップ制度ですが、一方で、チップ文化に馴染みのない日本においては、マイナスの影響も考慮する必要があります。
チップ文化については、SNSを中心に批判的な意見も少なくありません。
チップ制度の導入が飲食店にもたらすメリットとデメリットについて解説します。

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日本と欧米のチップ文化の違いを認識する

これまで日本では、チップは特別なサービスに対して任意で支払われるもの、あるいは気持ちを表すものとしてとらえられてきました。
たとえば、旅館の仲居さんへの「心付け」や、タクシーなどで「お釣りは結構です」とお釣りを受け取らない行為などが、日本におけるチップの具体例といえます。

日本ではチップのように正規料金以外のお金を渡すのは限定的な場面だけであり、欧米のようにサービス料として定着しているわけではありません。
お客が「チップを払う」という行為自体に馴染みが薄く、多くのお客にとってチップは「余分な費用」という認識が強いのが実情です。

一方で欧米諸国では、チップはサービス業における従業員の収入の一部として広く認識されており、飲食店だけでなく、ホテルやタクシーなどさまざまな場面でチップの支払いが習慣化しています。
アメリカでは、飲食店のサービススタッフの給与がチップを前提に設定されていることが多く、チップはサービスに対する正当な対価とされています。
そのため、お客もサービスを受けた際には、代金の15%から20%程度のチップを支払うのが一般的となっています。

このような文化的な背景の違いがあるため、日本においてチップ制度を導入する際には、お客の理解を得るための丁寧な説明と、従業員への周知が不可欠となります。

近年は日本でも、モバイルオーダーシステムにチップ機能が搭載され、接客やサービスがよかったスタッフにお客が任意で手軽にチップを支払うことができるようになりました。
モバイルオーダーシステムを導入している飲食店を中心にチップ制度の普及が進むなかで、ある飲食店では1カ月で7万円のチップを受け取ったという事例も報告されています。

モチベーションとエンゲージメントが向上

飲食店にチップ制度を導入することは、経営面、従業員、お客のそれぞれにさまざまな影響を与えます。

飲食店にとって、チップ制度の導入による最大のメリットは、従業員のモチベーション向上です。
お客からの感謝の気持ちがチップという具体的な形で示されることで、従業員は自分のサービスが直接評価されていると感じ、仕事への意欲を高めることができます。
特に、お客との直接的な接点が多いホールスタッフにとっては、サービス品質の向上に直結するインセンティブとなるでしょう。

また、チップによる収入増は、結果として従業員の定着率の改善にもつながります。
人手不足が深刻化する飲食業界において、魅力的な給与体系は優秀な人材の確保と育成に不可欠です。
チップ制度は、基本給だけではない報酬を提供することで、従業員のエンゲージメントを高める効果が期待できます。

ただし、メリットがある一方で、チップ制度にはデメリットも少なくありません。
チップ制度を導入するうえでの最大の懸念点は、お客への新たな負担が生じることです。
日本ではチップを支払う習慣がないため、多くのお客は「なぜ追加でお金を払うのか」と抵抗を感じる可能性があります。
特に、モバイルオーダーシステムでのチップ機能は、会計時に提示されるため、「強制されている」と圧力を感じてしまうお客もいるかもしれません。
これにより、お客の来店頻度が減少したり、ほかの店舗に流れてしまったりするリスクも考えられます。

また、お客によっては、チップの金額がサービス品質に見合わないと感じたり、グループで来店された際にチップを支払う人と支払わない人で不公平感が生じたりする可能性もあります。

さらに、チップが従業員のモチベーション向上につながる一方で、チップの配分方法によっては従業員間の不公平感を生み出し、人間関係の悪化を招く可能性があります。
店に対して支払われるチップであれば問題ありませんが、スタッフ個人に支払うチップの場合は、お客との接点が多いホールスタッフだけにチップが集中し、キッチンのスタッフなど、お客と直接触れ合わない従業員にチップが行き渡らないといった事態も考えられます。
チップの配分方法については、公平な仕組みを構築することが非常に重要です。

このように、文化として定着していないなかでのチップ制度は、さまざまな課題を抱えています。
導入を考えているのであれば、自店の経営戦略やお客の層、従業員の特性などを総合的に考慮し、慎重に検討を進めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年9月現在の法令・情報等に基づいています。