『睡眠時無呼吸症候群(SAS)』治療における歯科連携の重要性
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」は、夜間のいびきや日中の強い眠気、集中力の低下など、日常生活にさまざまな影響を及ぼす疾患です。
SASの診断や治療は、耳鼻咽喉科や呼吸器内科といった専門の診療科が中心となって行いますが、歯科との連携が患者の疾患の改善に大きく寄与することがあります。
特に「口腔内装置(マウスピース)」は、SASの基本的な治療であるCPAP療法の代替療法や補助療法として用いられることもあり、歯科医師の協力が欠かせません。
SAS治療に関心のある歯科医院に向けて、歯科連携の重要性について説明します。
健康リスクのあるSASは口腔内構造が原因?
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」とは、眠っている間に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりを繰り返す病気です。
睡眠時に無呼吸状態が続くと、身体は常に酸欠状態となり、睡眠中に脳が覚醒を繰り返すため、深い眠りが得られません。
結果として、日中に強い眠気を感じたり、集中力が続かなくなったりするだけでなく、頭痛や倦怠感といった症状にもつながります。
さらに深刻なのは、SASが引き起こす全身への影響です。
睡眠中の酸欠状態は、心臓や血管に大きな負担をかけ、高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳卒中といった循環器疾患のリスクを高めます。
日本呼吸器学会によれば、成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられ、SAS患者は非患者に比べて高血圧や心筋梗塞、脳卒中などを引き起こす危険性が高いことが報告されています。
ただし、睡眠時に機器を使用して圧縮した空気を気道に送り込む「CPAP(持続陽圧呼吸療法)」など、適切な治療を行うことで、疾患のリスクを下げることが可能です。
また、こうしたSASの治療においては、歯科との連携が診断や治療に役立つ場合があります。
SASは気道が狭くなることで起こりますが、その原因の一つとして、口腔内の構造が関わっているケースも少なくありません。
たとえば、舌が通常よりも大きい「巨舌」の場合、仰向けに寝た際に舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道を塞いでしまうことがあります。
また、下顎が小さい、または後退している「小顎症」や「下顎後退症」の場合も、舌の付け根の位置が後方にずれるため、気道が狭まりやすくなります。
さらに、軟口蓋が厚い、または長い人も、睡眠時に気道に垂れ下がり、いびきや無呼吸の原因となることがあります。
歯並びや噛み合わせも関係することがあり、前歯が内側に倒れ込んでいるような歯列不正があると、舌の収まるスペースが狭くなり、舌が後方に押しやられて気道を圧迫する可能性も考えられます。
このように、口腔内の形態や骨格的な特徴、歯の配置などが、SASの発症リスクを高める要因となる場合があります。
歯科医師は、日常の診療のなかで患者の口腔内を診る機会が多く、これらの特徴を早期に発見し、SASの可能性を疑うことができる立場にあります。
患者の口腔内の状態を詳しく評価することで、専門の診療科によるSASのスクリーニングや診断、そして、適切な治療へとつなげていくことができるということです。
歯科医師による口腔内装置を用いたSAS治療
SASの治療法として広く知られているCPAPですが、CPAPが合わない患者や、軽度から中等度の患者に対しては、歯科医院で製作される「口腔内装置(マウスピース)」が有効な場合があります。
口腔内装置は就寝中に装着することで、下顎が前方に移動して舌の付け根や軟口蓋が前方に引っ張られ、気道が物理的に広がるというものです。
これにより、いびきが軽減したり、無呼吸状態の回数が減少したりする効果が期待できます。
口腔内装置の大きなメリットは、持ち運びが容易で、電源を必要としないため、旅行や出張先でも使用しやすい点にあります。
また、CPAPのようなマスクの圧迫感がないため、装着感がよく、治療の継続率が高いことも特徴です。
ただし、口腔内装置の製作には、患者一人ひとりの口腔内の状態や噛み合わせ、無呼吸の程度に応じた精密な調整が必要です。
そのため、歯科医師による診断と型取り、熟練した技工士の技術が欠かせません。
また、治療開始後も、効果の確認や装置の微調整が必要となる場合があるため、睡眠専門医との連携のもとで、患者の状態を総合的に管理していくことが重要です。
歯科医師がSAS治療に積極的に関わることで、患者の症状改善に貢献できるのはもちろん、自身のクリニックの新たな専門性や経営の柱を築くことにもつながります。
まずは、SAS治療についての知見を深めるところから取り組んでみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2025年9月現在の法令・情報等に基づいています。