「広大地」制度はもう使えない?『地積規模の大きな宅地』とは
かつて相続税対策として注目されていた「広大地評価」制度をご存知でしょうか。
この制度は、一定面積以上の土地の評価額を大幅に引き下げることができる仕組みでしたが、2018年の税制改正で廃止され、新たに「地積規模の大きな宅地」という評価制度が設けられました。
旧制度では適用要件があいまいで税務当局と争いが生じることがありましたが、新制度では要件が明確化され、評価方法も簡素化されています。
今回は、制度変更の背景から新しい評価制度の仕組み、適用要件など、土地の所有者が押さえておくべきポイントを解説します。
「地積規模の大きな宅地」へ制度変更の背景
旧「広大地評価」制度は、大規模宅地で、将来の分割開発が想定される場合に適用される評価制度でした。
この制度では、住宅用地の分割開発に伴う道路などの公共施設用地を考慮し、評価額を大幅に減額することができました。
たとえば、開発想定面積から公共施設用地相当分を差し引くことで評価額を30〜40%程度減額できる場合もあり、相続税対策として注目されていました。
しかし、この制度には深刻な問題がありました。
最大の課題は「適用条件があいまい」だったことです。
同じような条件の土地でも税務署の判断によって適用の可否が異なることがありました。
さらに、広大地補正率の計算は複雑で、開発想定や潰れ地の評価には専門的な知識が必要で、税務当局との争いの原因になることも多かったのです。
そのため、「税務当局と争点になりやすい」という実務上の問題も抱えていました。
これらの課題を解消するため、2018年の税制改正で「地積規模の大きな宅地」評価方式が導入されました。
新制度は、要件が定量的に規定され、税務判断の透明性が大幅に向上しました。
メリットとして適用判断が容易になり、安定した評価が可能になりました。
一方で、厳格化された要件により、旧制度で対象だった土地が新制度では対象外になるというケースも増えています。
地積規模の大きな宅地に該当する要件とは?
新制度「地積規模の大きな宅地」は国税庁の「財産評価基本通達」に基づき、旧制度より適用要件が明確になりました。
まず、面積要件が具体的に数値化されました。
・市街化区域のうち「三大都市圏内の特定市等」に所在する場合は500㎡以上
・それ以外の市街化区域または準都市計画区域では1,000㎡以上
・都市計画区域外の土地は対象外
この基準により、対象となる土地が一目で判断できるようになりました。
用途地域や容積率についても明確な条件が設けられています。
指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)未満であることが必要で、高層ビル用途の土地は除外されます。
また、対象となるのは「路線価図上で普通住宅地区または普通商業・併用住宅地区に区分されている地域」に限られます。
評価方法についても大きな変更がありました。
改正前の広大地評価では「地積×路線価×広大地補正率」という計算式でしたが、新制度では、路線価に奥行価格補正率や不整形地補正率などの各種補正率を乗じ、さらに規模格差補正率(0.8~0.95)を掛けて算出されます。
これにより、土地形状や地積を反映した合理的な評価が可能になりました。
また、一団の土地として利用される場合、分筆されていても実質一体として利用されているときは、合算して面積要件を満たすかどうかが判定されます。
新制度は、旧広大地評価に比べて制度設計が明確になった反面、要件が厳格化されたことにより、従来の対象土地が適用対象外となるケースも増加しています。
相続開始前の土地活用や分筆の検討など、事前対策によって将来の相続税負担が大きく変わる可能性があります。
相続税対策のためには、早期に土地活用や不動産評価に精通した専門家に相談することをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2025年9月現在の法令・情報等に基づいています。