有限会社 サステイナブル・デザイン

JAPAN WAY and Beyond

15.11.05
オトク情報
-「もし、ラグビーに『型』の種目があれば、日本は優勝するに違いない」 

退任したばかりの平尾元ラグビー日本代表監督が講演で、こう話すのを聞いたことがあります(これだけ、エディ・ジョーンズの言葉ではありません)。 
しかし、その種目はないし、これからもないでしょう。 

また、ボクシングなどのように体重で階級が分かれていれば、日本は軽量級で王者になれるかもしれません。 
しかし、体重別で階級に分かれてはいないし、これからも別れないでしょう。 

柔道で言えば、かつての「無差別級」で闘うしかないのです。 
柔道では「柔よく剛を制す」と言いますが、無差別級1本のラグビーW杯で、「小よく大を制す」法を史上初めて具現化したのがJAPAN WAYです。
ラグビーW杯はNZの史上初連覇・3度目の優勝で幕を閉じました。日本もベスト8進出を逃したものの史上初の1大会3勝を挙げました。
JAPAN WAYを旗印に掲げ、その成果を導いたエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)もW杯終幕と同日で退任しました。
今日はこのJAPAN WAYについて考察し、企業経営と組織づくりに生かせる教訓を引き出したいと思います。 

そもそもJAPAN WAYとは? 


欧米で成功した取組や新しい制度を日本に持ち込むときに、日本版○○などといって、そのまま直輸入はしないけど、日本・日本人・日本社会に合わせて「いいとこ」だけ取り入れるんですよ、という体をとることがあります。 

日本版ビッグバン(金融制度改革) 
日本版NISA(少額投資非課税制度) 
日本版401k(確定拠出年金) 
などなど。 

先月末で退任したラグビー日本代表のエディ・ジョーンズHCの提唱したJAPAN WAYは、これとは趣が異なります。 

JAPAN WAYとは、他のどこの国とも違う、「JAPAN」と聞けば、「ああ、あれね」と誰もが思い浮かべることができる日本独自のラグビースタイルです。日本版オールブラックス(NZ)とか、日本版スプリングボクス(南ア)とか、他国他チームの亜流ではなく、日本自身が「本物」であるスタイルを持つこと。 

それは、エディHC自身の言によれば、 

-「アップテンポでスキルを使うラグビー」 


です(https://www.rugby-japan.jp/2015/03/20/id31241/)。 

その具体的な姿は、9月19日の南アフリカ戦の大逆転勝利の試合で、ほぼ完全に表現されました。 

・相手を上回る敏速な集散(接点で常に数的優位を確保) 
・小さな体で、大きな相手を倒すタックルスキル 
・小さな体で、大きな相手に当たって前進するスキル 
・スクラムで、重い相手に押し勝つスキル 
・ミスの少ない、ハンドリングスキル 
・ペナルティの少ない、高いディシプリン(規律) 
・狙ってトライをとれるアタックの決定力 
・これらを80分間継続して実現できるフィットネス 

このために、日本代表は世界一過酷ともいわれる長期間の合宿練習を積み重ねてきました。 

-「日本はプライドを取り戻した」 


10月30日の退任会見の冒頭、エディHCはこう言いました。 
本当にそうです。ヘスケスが逆転のトライを決めた瞬間、1995年のNZオールブラックスに喫した、145-17という屈辱の敗戦のトラウマから、やっと解放されたと感じました。 

南ア戦、最後のワンプレーをどうするか。あのとき、円陣の中で「同点では歴史は変わらない」という木津選手の言葉が、勝つか負けるかのスクラム勝負をリーチ主将に選択させたそうです。 

-「文化を変えるのは難しいことですが、100%の努力、各選手に特化した準備、勝ちにいく姿勢で臨めばきっと変えることができるはずです。これがまさしくJAPAN WAYです!」 


これは2015年3月のエディHCの言葉です。
W本番での結果が伴うことで、理論・方法論の正しさが証明されました。 

エディHCはインカムで「3点で同点狙い」を指示しました。しかし、選手はその指示ではなく、JAPAN WAYを信じ貫いた。 

企業経営でいえば、そこまで理念浸透できたら言うことなし、ですね。
しかし、ローマは1日にしてならず、JAPAN WAYも4年間をかけて、ようやく花を咲かせ、最初の実を実らせたのです。 

五郎丸ブーム」のわけ 

小よく大を制すラグビー。これを実行・実現したJAPAN WAYは、現時点ではユニークで異色です。たまたま弱い国が強い国を破った、以上の「何か」があります。 

そのユニークさ・異色さ・「何か」の象徴と言えるのが、あの「五郎丸ポーズ」です。
ちなみに、五郎丸選手は、このW杯で初めてあのポーズをやってみせたわけではありません。長い間ずっと同じように、ルーティンとしてやっています。 

それなのになぜ、国内外であれほど五郎丸選手がブームになるのか?
たとえば、南ア戦の五郎丸選手のトライが年間最優秀トライにノミネートされました。
個人的には、なぜ、同じ南ア戦のヘスケス選手の逆転トライではないのか?と思います。 

選考過程はわかりませんが、JAPAN WAY「らしさ」をもっともよく象徴する選手が五郎丸選手だったからではないでしょうか? 

-「日本代表と聞いたら誰もが言える特徴が必要」 


これは10月30日のエディHC退任記者会見での発言です(https://www.youtube.com/watch?v=75m8sHMTJvU)。 

今のところ、世界はJAPAN WAYとは何かを、明確には理解できていません。
しかし、衝撃的にすごいことを起こしたことは間違いない事実です。
今、それをわかりやすく伝えるには、五郎丸選手ほどよく「日本代表と聞いたら誰もが言える特徴」を表現できる存在はありません。 

これは日本国内においても同じです。

新国立競技場問題が報道されるまで、2019年に日本でラグビーW杯が開催されること自体、ほとんど誰も知りませんでした。 
そして、そのことがある程度知られた後でも、今年の9月にW杯があり、そこに日本が出場することを知っている人はほとんどいませんでした。
それがまさに一夜にして、これだけのブームです。
もし、五郎丸ポーズがなかったとしても、他の分かりやすいイメージが使われたことでしょう(小さな巨人・田中選手とか、クルっと回ってトライの山田選手とか)。 

(ちなみに我が家では、勝手に「五郎丸じゃんけん」を開発しました。右手を上に両手を組んで、人差し指を立てた、いわゆる五郎丸ポーズの状態がチョキ、人差し指も組んだらグー、右手の指を全部立てたらパーです。) 

ブレイクスルーを持続可能性に変えることができるか 


今回のW杯南ア戦はまさに乾坤一擲の大勝負でブレイクスルーを成し遂げました。 

ただ、もし、JAPAN WAYが一発勝負の必殺技のようなものではなく、普遍性のある方法論であれば、一過性のブームが去っても、これから日本国内外のチームで再現されていくことでしょう。 

すべての試合で適用できるわけではありませんが、体力・体格差のある対戦において有効な戦略オプションとして模倣され、普及し、確立していく可能性はあると思います。
すると逆に、対抗策の研究も進み、普及し、確立していきます。南アやスコットランドが日本から奪ったトライの状況をみれば、実は対抗策は比較的容易に準備できます。 

JAPAN WAYもまた、単に完成度を上げるだけでなく、継続的革新と進化が必要なのです。 

JAPAN WAY持続のカギは採用と育成 


今回1・2・3位を独占した南半球のNZ・豪州・南アの3ヶ国では、時とともに選手は入れ替わり、戦略・戦術も進化しながら、常にその国らしいチームをつくり、強さを維持しています。 

では、JAPAN WAYは他ならぬ日本において再現可能でしょうか?あるいは継続的な革新・進化が可能でしょうか? 

実はそこに、エディーHCが日本を去る理由があるようです。 

-「エリートシステムが必要だ」 


退任会見で、日本に戻るとしたら、どういう条件が必要か?との質問に対する答えです。
つまり、才能ある選手を発掘し、育て上げる継続的な仕組みが、今の日本にはない、ということです。 

大野選手が101kgから109kgに肉体をビルドアップさせたことを引き合いに出しながら、そのための「ハードワーク」は本来、代表チームにおいてなすべきことではなく、各所属チームで、あるいは、育成のプロセスでなされるべきである、と。 

たしかに、既に優れた実績を挙げているから代表に選出されるのであって、その逆ではありません。どの競技でも同じですね。 

今回の代表チームは幸運にも才能あふれる選手で編成することができたが、今後もそうできる確固たる見込みはない。
とすれば、引き続き、代表チームで「ハードワーク」をやり続けるのか、ということになります。 

2015年W杯に向けては、いわば「代表チーム限定・期間限定特別プロジェクト」でした。エディーHCは、いわば、その担当部長でした。
これでブレイクスルーを成し遂げましたが、では、2019年W杯に向けて、第2弾の「限定特別プロジェクト」をやればいいのか、といえばそうではない、ということでしょう。 

よく、代表はピラミッドの頂点、頂点が高くなればその競技の底辺も広がる、と言われます。 

今回の日本代表は、頂点をかつてなく高めました。これをきっかけにラグビーを始める子供たちが増えれば底辺も広がるでしょう。
しかし、底辺から頂点に至る階段、つまり育成システムを整えなければ、優秀な人材の供給が細り、やがて頂点も下がり底辺も狭まります。 
これを構築し安定的に運用していくことが、エディーHCが残した課題です。

企業において、有為の人材の採用と育成が重要であるのと同じです。

ただ、日本の国技である相撲、お家芸と言われる柔道ですら、ここでは苦労しています。
若貴兄弟を最後に、もう18年間も、日本人の横綱は生まれていません(若乃花が第66代横綱になったのが1998年)。
柔道でも重量級を中心に長い不振が続きました。 

ラグビー3強国、NZ・豪州・南アのように、国民文化的に確立した「らしさ」がないところで、代表監督が変わるたびに、戦略・戦術から何から、根本的に覆るような状況では、望ましい選手像も安定しません。 

企業でいえば、企業理念、望ましい人材像、採用基準、評価基準、指導方法が、「部長」(社長ではなく!)が変わるたびにコロコロ変わってしまうようなものです。 

これでは、持続可能な組織経営とはいえませんね。

Brave Blossomsはこれからも咲き誇れるか?


代表選手の心と体にビルドインされたJAPAN WAYは、彼らが現役である間、生き続けるでしょう。
では、その先は?

今後も、世界のラグビー界で、Brave Blossomsは咲き続けることができるのか?
2019年日本開催W杯で、より大きく美しく咲き誇ることができるのか?

それは、JAPAN WAYがエディー個人や個々の選手の属人的な方法論ではなく、組織共有の体系として共有できるかどうかにかかっています。