高年齢労働者の『労災防止対策』が努力義務に! 求められる対応は?
少子高齢化が進む日本において、豊富な経験と知識を持つ高年齢労働者は、企業にとって欠かせない戦力です。
しかし、その一方で、加齢に伴う身体機能の低下が原因となる労働災害のリスクも高まっています。
こうした現状を受け、2025年5月14日には改正労働安全衛生法が公布され、高年齢労働者の労災の抑制を目的とした労働災害防止措置が、すべての事業者に努力義務として位置づけられました。
施行日の2026年4月1日を前に、企業が今から行なっておきたい準備について、解説します。
なぜ高年齢労働者の労災は起きてしまうのか
今回の法改正の背景には、日本の労働市場における急速な高齢化があります。
今や働く人のうち、60歳以上が占める割合は年々増加しており、まさに「生涯現役社会」が到来しています。
しかし、その裏で深刻化しているのが高年齢労働者の労働災害です。
労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者が占める割合は増加の一途をたどっており、近年では全体の約3割に迫っています。
厚生労働省の調査結果を見てみると、65歳以上の高年齢労働者の労働災害発生率は、30代の労働者のおよそ2.5倍程度であることがわかります。
特に、転倒事故や腰痛などは、若年層に比べて発生率が高く、一度事故が起きると重症化しやすい、あるいは治癒までに時間がかかるといった傾向が見られます。
こうした高年齢労働者の労災リスクを考えるうえで避けて通れないのが、「身体機能の低下」と「本人の意識とのギャップ」です。
一般的に、人は加齢と共に視力や聴力が低下し、平衡感覚や筋力、瞬発力も衰えていきます。
若い頃なら何でもないような段差でつまずいたり、濡れた床で滑った際に受け身が取れずに骨折してしまったりするケースが後を絶ちません。
また、薄暗い場所での作業で手元が狂ったり、警告音に気づくのが遅れたりすることも事故の原因となります。
さらに複雑なのが、労働者自身が「自分はまだ若い」「これくらいなら大丈夫」と考えているケースが多いことです。
長年の経験があるベテランほど、自身の身体能力の衰えを自覚しにくく、無理な動作をしてしまいがちです。
この「身体機能の低下」と「自己認識のズレ」が重なったときに、労働災害は発生します。
「エイジフレンドリーガイドライン」とは
これまでも事業者は労働者の安全を守る義務を負っていましたが、今回の改正では、明確に「高年齢労働者の心身の特性」に応じた措置を求めているのが大きな特徴です。
施行日は2026年4月1日となっており、事業者はそれまでに社内の安全衛生体制を見直し、具体的な対策を検討し始める必要があります。
努力義務とはいえ、法律に明記されたことの重みは大きく、万が一労災が発生した場合には、十分な措置を講じていたかどうかが、企業の安全配慮義務違反を問う際の重要な判断要素の一つとなる可能性は十分あります。
では、具体的にどのような対策を講じればよいのでしょうか。
改正法では、厚生労働省が定める指針(ガイドライン)に基づき、事業者が措置を講じることとしています。
この指針とは、厚生労働省が策定した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」、通称「エイジフレンドリーガイドライン」のことです。
このガイドラインは、高年齢労働者が安心して働ける職場環境をつくるための教科書のようなもので、事業者はこのガイドラインの「5つの柱」に沿って準備を進めていきましょう。
まず、1つ目が「安全衛生管理体制の確立」です。
経営トップが「高年齢労働者の安全確保に取り組む」という方針を表明し、社内の担当者を明確にすることがスタートです。
衛生委員会などで高齢者の安全について話し合う機会を設け、現場の声を吸い上げる仕組みをつくりましょう。
2つ目の「職場環境の改善」は主にハード面での対策です。
たとえば、通路の段差をなくす、階段に手すりを設置する、作業場の照明を明るくする、滑りにくい床材に変更するといった対策があげられます。
また、重量物を扱う作業では、持ち上げずに済むような補助機器を導入したり、作業台の高さを調整して腰への負担を減らしたりすることも有効です。
3つ目の「高年齢労働者の健康や体力の状況の把握」は、定期健康診断の結果をチェックするだけでなく、体力測定(転倒リスクのチェックなど)を実施し、労働者自身の体力を客観的に把握する機会を提供します。
自身の身体機能の現状を知ることは、無理な作業を避けるための第一歩となります。
4つ目の「高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応」では、個々の健康状態や体力に合わせて、業務内容や配置を見直します。
たとえば、視力や聴力が低下している従業員には危険を伴う作業を任せない、体力が落ちている従業員には休憩時間をこまめに取らせる、勤務時間を短縮するといった柔軟な対応が求められます。
5つ目の「安全衛生教育」は、高年齢労働者に対し、加齢に伴う身体機能の変化や、それに伴うリスクについて教育を行います。
また、管理者層に対しても、高齢者特有のリスクを理解させ、適切な指導ができるよう教育することが大切です。
「慣れ」による油断を排除し、現在の自分に合った安全な作業方法を再学習させる機会を設けましょう。
2026年4月1日から施行される改正労働安全衛生法により、高年齢労働者への労災防止対策は企業の努力義務となります。
これは単なる規制強化ではなく、経験豊富なベテラン従業員が長く健康に働き続けるための基盤づくりとなるはずです。
まずは「エイジフレンドリーガイドライン」を確認し、自社でできることから少しずつ対策を始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2026年2月現在の法令・情報等に基づいています。