4バリューの図は、なぜ同心円なのでしょう?
4バリューとは、経営において追求すべき4つの価値:
「人生の幸福・会社の永続・社会の繁栄・健全な環境」
を表わしています。
それでは、この4つの価値は、相互にどのような関係にあるものと
考えたらよいのでしょうか?
その考え方によって、経営における
意思決定・行動選択が変わってくる
ので、とても重要なテーマです。
この図は、立教大学観光学部で兼任講師(一般的には非常勤講師)として、
「環境社会学」を担当していた時の講義資料です。
よく見ると、左下のフッタに「041214⑪」とあるので、
2024年度後期の11回目の講義(12月)で使ったものです。
2003-2006年度担当しましたので、その2年目ですね。
環境・社会・経済の関係は?
そもそも、環境・社会・経済を3点セットとしてとらえる
考え方は、1997年にジョン・エルキントン氏により
「トリプルボトムライン」として提唱されました。
(文献史的にはもう少しさかのぼることもできるようです)
ボトムラインとは、企業会計において、決算書の「最終行」、
すなわち最終的な損益を表します。
(反対に、トップラインは一番上の行、売上を表します)
それがトリプル、ということで、企業は経済面(通常の財務的な損益)
だけでなく、環境面、社会面への影響(+も-も含め)の
決算もすべきだ、という考え方ですね。
今となっては、さほど異論のない考え方かもしれませんが、
当時としては、画期的でした。
その後、環境会計、マテリアルフローコスト会計、炭素会計、
サステイナビリティ会計・・・などの手法開発が進んできましたが、
これらのルーツをたどっていくと、トリプルボトムラインに行き着きます。
そして、現在では、環境・社会と、
財務諸表で貨幣価値で表現しにくい企業統治(ガバナンス)
に関する取組内容が、ESGのフレームで求められています。
実はこの講義時点では私自身は知らなかったのですが、
ESGのフレームワークを定式化した国連の報告書
が発行されたのが、まさに2004年の12月でした。
さて、環境・社会・経済の関係をどのように考えたらよいのか?
図解のパターンとして4例を示したのが、この講義の図です。
皆さんなら、どの図が自分にとって理解しやすいでしょうか?
あるいは、自分が説明するなら、どの図を使うでしょうか?
直感でよいので10秒ほど考えてみてから読み進めてみてください。
・・・
・・・
・・・
どのパターンを選びましたか?
それでは、1つひとつ見ていきましょう。
図と照らし合わせながら読んでみてください。
①並列モデル
これは、「分類」としてはわかりやすい図ですね。
やること3つありますよ、ということが伝わります。
しかし、環境・社会・経済の関係は示されていません。
もしかしたら、上から順番に重要なのか?という見方もできますが、
それでいいのかどうかは定かではありません。
このような場合、環境と経済、経済と社会、社会と環境が
矛盾しバッティングする状況において、
どれを優先すべきかの判断が難しくなります。
「あれか/これか」の二律背反を「ジレンマ」といいますが、
3つなので「あれか/これか/それか」の「トリレンマ」構造になります。
こうなると、経営者のデフォルトの判断としては
損益、すなわち経済優先となりがちです。
すると結局、従来と何も変わらない、
環境・社会はオマケという位置づけにしてしまいがちな
思考ということになります。
ですから、この並列モデルで考えていると、
いいこと言っているけど、言ってるだけ、
少ししか、あるいは、ポーズとしてだけしかやってません、
今どきなら、グリーンウォッシュ、SDGsウォッシュを
招きやすくなることが懸念されます。
②オーバーラップモデル
次に、オーバーラップモデルです。
数学の「集合」の時間にならった表現だと「ベン図」ですね。
並列モデルでは、3つの要素の関係や不明でしたが、
オーバーラップモデルでは、3つの要素は少なくとも
「相互に一部重なるところがあり」
「3要素が全部重なるところもある」
と考えていることになります。
CSRというと、日本には昔から近江商人の
考え方がある、売り手よし、買い手よし、世間よしの
「三方よし」の考え方が引き合いに出されることが多いですが、
これを説明するのには適している図です。
なぜなら、
・一方よし(他の要素と重なるところがない)
・二方よし(2要素だけ重なる)
ではダメで、
・三方よし(3要素全てが重なる中心部分)
だけがOKだ、ということになるからです。
私自身は、このオーバーラップモデルは、2007年度~2024年度まで
講師を担当した島づくり人材養成大学において、
集合研修の最後にお伝えしている「心得十訓」の十番目、
「3つのタメ」の説明に使ってきました。
世のタメ、人のタメ、自分のタメ、3つが重なるところで
考えた目標は、時機が悪かったり方法が悪かったりして
うまくいかないことはあるとしても、
その本質的な正しさにおいては、誰も否定できないよ、
というメッセージを伝えるためです。
ただ、このモデルでも、3要素が重なる中心部分に
すべての活動が納まらない限り、相互に矛盾・対立が
生じる構造です。
トリレンマを解くには、別の判断基準が必要になります。
③ピラミッドモデル
続いて、ピラミッドモデルです。
このモデルの場合、
・下に置かれる要素ほど基礎的(上の要素を支える)
・上に置かれる要素ほど付加的(下の要素に支えられる)
という「支える-支えられる」の関係性が想定されています。
したがって、「この順序でなければならない理由」がある、
ということになります。
たとえば建物で考えた場合、構成要素を単純に屋根・柱・土台として、
あなたなら、下から上に向かってどの順番で造っていきますか?
・・・
・・・
・・・
・屋根・柱・土台
・屋根・土台・柱
・柱・屋根・土台
・柱・土台・屋根
・土台・屋根・柱
・土台・柱・屋根
組み合わせとしては、この6パターンがあります。
しかし、考えるまでもなく、一番最後の
・土台・柱・屋根
の順でなければ、建物を造っていけませんよね?
では、環境・社会・経済だったら、あなたは
下から上に向かってどの順番に重ねますか?
・・・
・・・
・・・
理屈としては、屋根・柱・土台と同じく6パターンですね。
・経済・社会・環境
・経済・環境・社会
・社会・環境・経済
・社会・経済・環境
・環境・経済・社会
・環境・社会・経済
・・・
どのようにお考えになりましたか?
おそらく、多くの方が、一番最後の
・環境・社会・経済
のパターンを選ばれたのではないでしょうか?
環境とは、定義上、社会をとりまくものであり、
経済活動は重要だけれども、社会の一部に過ぎないからです。
ですから、ESGも、GSE/GES/SGE/SEG/EGSのどれでもなく
理由があって、ESGの順番になっているのです。
何気なく、アルファベットを並べてみたら、
たまたまESGでした、それでいいんじゃない?
といってそうなった、わけではないのです。
ちなみに私はESGを説明するときに、
このピラミッドモデルをアレンジした
3段の鏡餅モデル
を使っています。
このモデルの場合、
・下の要素が上の要素を支えている
・上の要素は下の要素に支えられている
という構造ですから、経済的成果がほしければ、
健全な環境と社会の繁栄を維持・貢献することは当然の前提
と考えることになります。
ただし。
統合報告書や、サステナビリティレポートや、
WEBサイトのコンテンツではそのように書かれていても、
意思決定・行動選択がそうはなっていない、言行不一致のケースが
多々あるように思われます。
いかがでしょう?
④同心円モデル
最後に、同心円モデルです。
包含関係を表すのに適しているモデルですね。
私が住んでおり、会社の所在地でもある世田谷区を例にとると、
・世田谷区は東京都に含まれる
・東京都は関東地方に含まれる
・関東地方は日本国に含まれる
ので、同心円構造で表すと、中心から外に向かって
・世田谷区<東京都<関東地方<日本国
という順番で並べることになります。
さらにその外に、
<アジア<世界<地球<太陽系<銀河系<アンドロメダ銀河団・・・
と続けることもできます。
(さしあたって、経営を考えるには、
地球までで必要十分ではないかと思いますが)
視野が狭くなりがち、視点が偏りがちな場合に、
より広い視野、考慮に入れるべき範囲を示す意図などで、
同心円モデルを使うとよいでしょう。
なお、ピラミッドの各段が「円盤」型だとした場合、
上から見ると、同心円になります。
なので、私の講義では、ピラミッドモデル、
あるいは、この同心円モデルで、
環境・社会・経済の関係を説明していました。
4バリューモデル
さて、以上を踏まえて4バリューモデルです。
基本的には同心円モデルであることは一目瞭然かと思います。
それは、2004年に立教大学で講義をしていた当時から
考えていた構造を発展させたものだからです。
そして、外から内に向かって、
環境・社会・経済、あるいはESGと
同じような順番になっていますね。
しかし、違いが2点あります。
環境・社会・経済の「経済」、
あるいはESGの「G」の部分を
・経済活動の器(法人)としての「会社」
・経済活動の器(法人)を形作る実体としての個人(経営者・社員)の「人生」
に切り分けて、「人生」を中心に置いたこと。
もう1つは、トリプルボトムラインやESGは、
社会から、あるいは投資家からの視点で会社を評価する
「外来」・「評価者」目線のフレームであるのに対し、
4バリューモデルは、「いい会社づくり」を主体的に行っていくための
「内発」・「経営者」目線のフレームである、という点です。
ちょっと理屈っぽくなり過ぎたかもしれませんが、
この同心円モデルを知っておくと、
中長期の経営計画が立てやすくなります。
このあたり、次回の記事でもう少し掘り下げていきたいと思います。