Kagurazaka Legal Office Group

スタッフの働き方を見直し、理想のサロン経営を目指そう

20.06.02
業種別【美容業】
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厚生労働省の分析データ『美容業の実態と経営改善の方策』にある『経営の問題点及び課題』によると、『年間 2 万人前後の新たな美容師が誕生しているが、定着率は非常に低い水準である。この原因は主に労働環境及び金銭的な待遇によるものと考えられる。「ワークライフバランス」に対する対応も大きな課題である』とあります。 
サロンを辞めるスタッフの理由はさまざまですが、実際、巷には『美容師は給与が低く、労働時間が長い』などのネガティブなイメージがあるようです。 
スタッフに長く働いてもらうためにも、労務に関する知識を高めて働き方を改善していきましょう。
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『法定労働時間』に沿いづらい美容業界

どの職種においても、働くうえで問題となるのが『低賃金』と『長時間労働』のループ。
特に、サロンで働く美容師にとっては、労働時間の長さが最もモチベーションを下げる理由としてあげられます。

時代の流行に敏感であることや、技術の向上が求められる専門職でもあるため、毎日の開店前や閉店後に30分~1時間のカット練習は欠かせません。
仮に、練習のための時間を含め出社が8時30分、退社時間が23時となるスタッフの場合、勤務時間と練習時間をあわせて15時間近く店にいることになります。
人の推奨睡眠時間は7時間とされていますが、その睡眠時間が大幅に削られてしまい、自律神経が乱れることにより新人が出勤できなくなるケースもあったそうです。

また、閉店後のカット練習の時間を『自主練習』と見なし、残業時間としてカウントしない店舗も存在します。
これは、あくまでも『会社の指揮命令下にある時間』が残業時間に当たるという決まりがあるためです。
会社からの指示によるマスト残業ではなく、美容師としての技術を次のステップへ進めるための自主練習ということで、残業には当たらないのです。

厚生労働省の『賃金構造基本統計調査』(2019年)によると、美容師・理容師の平均月収は約25万5,100円、平均年収は311万4,000円とあります。

しかし、その金額は、労働時間と照らし合わせても、到底満足できる額ではありません。
さまざまな不満が生まれる前に、オーナーもスタッフも納得できる労働時間と給与水準のバランスが求められます。

たとえば、労働は1日8時間、週40時間までと定められた『法定労働時間』、休日は週1日、4週で4日以上と定められた『法定休日』などの、法で定めている労働時間にきちんと準じること。
年間で原則360時間まで、1カ月では45時間までと定められている『法定時間外労働』についても、スタッフと認識を共有しておくこと。
そのほか、給与、残業、独立に関する項目や接客時の対応などについても、わかりやすいルールを作っておくことが大切です。

ただし、あまりにも細分化してしまうと、混乱を招くので、経営者側とスタッフそれぞれの立場を苦しめることにならないよう注意しましょう。


労働時間の上限を把握し、給与バランスを整える

法定労働時間を守ることは、働く人の健康を守り、維持していくためにも重要なポイントです。
原則として決められた労働時間を超えてしまった場合は、『割増賃金』を支払う義務があります。
これが、いわゆる『残業代』です。

残業代は、通常賃金+時給の0.25倍以上の額をプラスして支払わなければいけません。
たとえば、首都圏のサロンの平均時給で換算すると、

●通常賃金(時給)1,100円で、10時間残業した場合:
(1,100円×10時間)+(1,100円×0.25×10時間)=1万3,750円(残業代)

月給制の場合は時給を次のように割り出します。
(年間労働日数÷12カ月)=1カ月の平均労働日数【A】
(【A】×1日の所定労働時間)=1カ月の労働時間【B】
(月給÷【B】)=時給 

上記の計算に基づく割増賃金を支給し、スタッフの不満を少しでも解消していく努力が求められます。

しかし、残業代を支払っているからといって、むやみに時間外労働をさせてはいけません。
時間外労働をさせる際は、労働基準監督署への届け出が必要です。
通称『36(さぶろく)協定』と呼ばれる、労働基準法の第36条に規定された『時間外・休日労働に関する協定届』です。
万が一、届け出がないまま働かせ、行政の調査を受けてしまった場合、是正勧告という行政処分を受けます。
何度も是正勧告をされたにもかかわらず改善されない場合は、検察庁に書類送検され、その結果、有罪と判決されたら、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられることもあります。
スタッフの理解を得たうえで36協定を結び、速やかに届け出ましょう。


事業形態により義務づけられる社会保険

最後に、サロンにおける社会保険制度についても見ていきましょう。
法人であれば社長1名でも、個人事業主であれば従業員5名以上であれば、社会保険(厚生年金、健康保険)の加入が義務付けられています。

ただし、従業員5名以上の個人事業でも、農業、漁業、飲食業、サービス業で、法人ではない場合は例外です。
さらに、申請すれば適用事務所となれる任意適用事業所であれば、理容・美容業も人数に関係なく、社会保険加入の必要はありません。
そういった決まりから、サロンの求人広告には『社会保険加入』と書かれていたのに、実際は雇用保険と労災保険だけだったというケースも多くあります。

サロンが社会保険を完備するには、従業員一人あたり月60~70万円の売上が必須といわれています。
全国のサロンにおける1カ月の売上平均額は40~50万円という統計もあり、社会保険に加入したくてもできない事情が見えてきます。
とはいえ、法人経営で、スタッフの労働時間が週30時間以上の場合は、社会保険加入が義務付けられているため注意が必要です。

労務トラブルのきっかけは、膨大にあります。
その一つひとつが原因となって、離職率を高めているのは確かです。
時代に沿った労働環境を整えて、サロンスタッフの心身の健康を維持しながら、長く働けるスタッフの多いサロンを目指していきましょう。


※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています。