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境界線から生活音まで、身近な近隣トラブルを解決するには?

25.11.11
ビジネス【法律豆知識】
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住まいや店舗・オフィスの近隣で起こる騒音、悪臭、境界線問題など、小さな生活トラブルが大きな争いへと発展してしまうケースも少なくありません。
対応を誤ると法的責任を問われたり、関係が悪化して日常生活に支障をきたしたりする場合もあります。
近隣トラブルが殺傷事件にまで発展した事例なども報じられています。
今回は、よくある近隣トラブルの種類と初期対応として押さえておきたい基本的な対処法について、法律の視点からわかりやすく解説します。

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身近に起こるトラブルとその背景

近隣トラブルは誰にでも起こり得る身近な問題です。
なかでも騒音問題は近隣トラブルの代表的な事例として多く報告されており、そのほかにも境界線や悪臭に関するトラブルが頻繁に発生しています。

まず、最も多い騒音問題について見てみましょう。
子どもの足音や泣き声、深夜のテレビ音、楽器演奏など、日常的な生活音でも、受け手によっては騒音と感じられます。
特に集合住宅では、上階からの足音や隣室のテレビ音、ピアノ演奏などが典型的な例です。
環境省の「騒音に係る環境基準」では、住宅地域における望ましい基準を昼間55デシベル以下、夜間45デシベル以下としていますが、感じ方は個人差が大きいのが実情です。

次に悪臭トラブルです。
ペットの臭い、ごみの放置、排水や煙による臭いなどが典型例です。
工場や事業所を対象とする悪臭防止法では22種類の特定悪臭物質ごとに規制基準を定めており、違反が認められれば改善命令や罰則の対象となる場合があります。
一般家庭から出るタバコや生ごみ、ペットの臭いは特定悪臭物質には含まれませんが、主観的な要素が強いものの、受ける側にとっては深刻なストレスとなり得ます。

境界線をめぐる問題も頻繁に発生します。
塀やフェンスの設置位置、越境した枝や根、建築時の境界確認不足などが典型例です。
なお、2023年4月の民法改正により、一定の要件を満たす場合には、越境してきた枝を隣地所有者がみずから伐採できるようになりました。

こうしたトラブルの背景には、ライフスタイルの多様化や在宅時間の増加に伴う感受性の違い、長年の境界不明確、相続による土地の権利関係の複雑化などがあげられます。
感情のもつれが法的争いに発展することも珍しくなく、深刻な事件に至ったケースが報道されています。

法的手段に頼る前に冷静な対応を心掛けよう

近隣トラブルが起きたとき、まず心がけたいのは冷静な初動対応です。
感情的に直接苦情を伝えると、相手が逆上し、問題がかえって悪化することがあります。

最初は、相手に穏やかに事実を伝えることから始めましょう。
直接対話がむずかしい場合や相手がどのような人物かわからない場合は、管理会社や自治会など第三者を通じて間接的に伝える方法も有効です。
賃貸住宅であれば、大家や管理会社に相談することで、掲示板での注意喚起やポスティングなど、角を立てずに解決を図ることができます。

重要なのは、感情的にならず記録や証拠を残しておくことです。
騒音であれば発生時刻や継続時間を記録し、境界線問題では越境の状況を写真に収め、悪臭についても発生源や時間帯をメモしておきましょう。
これらは後に法的手段を検討する際の有力な資料となります。

話し合いで解決できない場合には、法的手続きが選択肢となります。
具体的には、不法行為に基づく損害賠償請求、妨害排除請求(騒音停止や越境物撤去の請求)、境界線問題では法務局による筆界特定制度の利用などがあります。
ただし、いきなり訴訟ではなく、まずは民事調停の利用を検討しましょう。
簡易裁判所の調停では調停委員が間に入り、費用を抑えつつ関係修復にも配慮した解決が可能です。

弁護士などの専門家への相談も冷静な対処に有効です。
専門家は法的な論点を整理し、最適な解決策を提示してくれます。
交渉を代行してもらうことで、感情的な対立を回避することもできます。

近隣トラブルは誰にでも起こり得る問題です。
初動での冷静な対応と証拠の保全が解決への第一歩となります。
「お互い様」の意識を持ちながら、相手の立場を理解する姿勢が大切です。
それでも長期化・深刻化する前に、法律の専門家へ相談することを忘れずに検討しましょう。
日頃から良好な近隣関係を築くことが、最も有効な予防策であることを心に留めておくようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。