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従業員の『内部告発』が会社に与える影響と正しい初動対応

25.07.08
ビジネス【企業法務】
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近年、企業のコンプライアンス意識の高まりとともに、組織内の不正を告発する「内部告発」の事例が増加しています。
内部告発は、企業の不祥事を明るみに出し、組織の健全化につなげられる一方で、対応を誤れば企業の存続を脅かす重大なリスクとなります。
特に2022年6月には公益通報者保護法が改正され、企業に求められる対応も強化されました。
今回は、内部告発が企業に与える影響と、経営者が知っておくべき対応方法、さらには適切な内部通報制度の構築方法について、具体的な事例を交えながら解説します。

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内部告発が会社に与える影響とは?

内部告発とは、組織内の人間が会社の法令違反や不正行為を、行政機関や報道機関などの外部に通報することを指します。
こうした通報者を保護するために制定されたのが「公益通報者保護法」です。
この法律は、内部告発者が通報を理由に解雇や降格などの不利益な取り扱いを受けることを防ぐことを目的としています。

内部告発による企業不祥事の代表的な事例として、2007年に発覚した「ミートホープ事件」があげられます。
北海道の食肉加工会社が牛肉ミンチに豚肉や鶏肉を混ぜて販売していた事実が、内部告発によって発覚しました。
この事件は大きな社会問題となり、同社は事業継続が困難となり倒産に追い込まれました。
また、2000年に発覚した「三菱自動車リコール隠し事件」も内部告発によって明るみに出た事例です。
同社がクレーム情報を国土交通省に報告せず、独自に「改善対策」として処理し続けていた事実を社員が告発、これにより会社は多額の罰金を科されただけでなく、ブランドイメージの失墜により販売台数が激減しました。

このような相次ぐ企業の不正や、内部通報者が不利益や報復を受けるケースが多かったことを受け、2006年4月、公益通報者保護法は施行され、その後、2022年6月に改正されました。
改正の主なポイントは、1.通報者の保護強化(通報者情報漏洩への罰則新設、保護範囲の拡大)、2.事業者の義務拡大(従業員300人超の企業への内部通報体制整備の義務化)、3.通報対象の拡大(対象となる法律違反の範囲拡大)の3点です。
内部告発が企業に与える影響は非常に広範かつ深刻で、社会的信用の失墜による株価下落や顧客離れ、取引先からの信頼低下による取引停止や契約解除、従業員の士気低下や人材流出などが発生します。
さらに、行政指導や法的措置の対象となり、行政処分や課徴金、刑事責任を問われるケースもあります。
特に中小企業では、情報管理体制が脆弱なことが多く、SNSなどを通じて情報が瞬時に拡散するリスクが高まっています。
また、公益通報者保護法の改正により、通報者の保護が強化され、企業側の対応義務も拡大していることから、これまで以上に注意が必要になっています。

企業が取るべき初動対応と体制構築

内部告発を受けた際の初動対応は、その後の展開を大きく左右します。
まず、事実関係の迅速かつ正確な把握が重要です。
通報内容について、客観的な証拠に基づいた調査を行い、問題の実態を明らかにする必要があります。
次に、通報者の保護を徹底します。
通報者の氏名や個人を特定できる情報は厳重に管理し、報復や不利益な取り扱いがないよう配慮しましょう。
改正法では通報者情報の漏洩に対して罰則が設けられたので、特に注意が必要です。
問題が確認された場合は、速やかに是正措置を講じるとともに、必要に応じて行政機関への報告や公表を検討します。
隠蔽や問題の矮小化は、後に発覚した際により深刻な事態を招くことになります。

このような初動対応を適切に行うためには、平時からの体制構築が不可欠です。
具体的には、内部通報窓口の設置(社内窓口だけでなく、法律事務所などの外部窓口も併設)、外部専門機関との連携(法律事務所や専門コンサルタントとの連携)、就業規則や社内規程の整備(通報制度の運用ルールや通報者保護に関する規定の明確化)、コンプライアンス教育の実施(定期的な研修や啓発活動)などが考えられます。
中小企業では限られたリソースのなかで効果的な体制を構築することが課題となりますが、顧問弁護士や社会保険労務士などの外部専門家に通報窓口を委託する、クラウドサービスを活用した通報システムを導入する、経営者自身が定期的に従業員と対話する機会を設けるなどの工夫が有効です。

内部告発は、企業の不正や問題点を明らかにし、組織の健全化を促す契機となり得るものです。
しかし、対応を誤れば、企業にとって大きなリスクとなる可能性もあります。
限られたリソースで実効性のある体制を構築するためには、経営者みずからがコンプライアンスの重要性を認識し、主導的に取り組むことが不可欠です。
「問題は小さいうちに解決する」という姿勢で、社内の風通しをよくし、従業員が安心して意見や懸念を表明できる環境を整えることが、結果的には内部告発のリスクを低減し、企業の持続的な成長につながるといえます。


※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。