さんだん會計事務所

ラーメンとプライバシー

16.04.08
業種別【医業】
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突然ですが、博多ラーメンはお好きですか? 

私は15年ほど前に北九州で半年間仕事をしたのをきっかけに、当時はまだ全国展開していなかった「一蘭」を博多の中洲で初めて知り、以来ときどき東京のお店に寄るようになりました。 

この店のシステムが相当変わっています。食事はすべてカウンターで供され、しかも両隣に仕切りがあり、投票所の記入コーナーのよう。

かなり狭いスペースに客を座らせていますが、仕切りがあるために見知らぬ隣人と結構密接していることも、隣からつゆが飛んでくることも気になりません。 

席に着いたら問診票…いや注文書に○をつけ、ボタンを押すと店員が小窓からそれを受け取ります。

「会話」の必要がありません。何しろ隣の顔は見えませんから、数名で一緒に来ても当然会話は弾まず、黙々とラーメンを食べる。

そして食べたら長居せずさっと帰る。実に機能的です。

味に定評はありつつも、食す姿が「家畜っぽい!」「若者のコミュニケーション能力を奪う!」と友人の間でも賛否両論。

しかし、いわゆる「個食」の時代には合っているのだろうと思います。
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博多ラーメンには独特の「替え玉」という制度があり、麺だけを追加注文することができます。これもまた箸袋に○をつけ、ボタン押して店員に渡すだけで会話が要りません。 

実は、「おかわりください!」と言わずに済むのは、女性にとっては実にありがたいのです。妙齢の女性がひとりでラーメンを食べに来て、おかわりを要求しているなんて、あまり公にしたくない個人情報ですから。 

私はラーメンを食べながら考えました。「これはクリニックのあり方にも通じるのではないか」と。 

ラーメン注文ですら、消費者には“言いたくないこと”があるのです。ましてや自分の体調のことは、目の前の医師にも言いづらいことがあります。少なくとも他人に聞かれずに済むような配慮、つまり「患者プライバシーの保護」は、選ばれるクリニックの必須条件になるだろうと思います。

そして、大勢の研修医の目にさらされる大学病院とは異なる、クリニックの強みにもなります。 

プライバシーへの配慮は、単にカルテ管理の問題ではありません。

患者が他の患者に話を聞かれることなく、安心して医師と話せる空間設計。問診票を充実させ、患者が言いたくないことは最小限に言うだけで済むシステムも有効かと思います。

できれば、問診票も他人に見られないよう、自宅でゆっくりメールで書いて送っておく、というシステムが取れれば理想的です。

調剤薬局でも、処方確認のためとはいえ、薬剤師がカウンター越しに「どうされたんですか?」と聞く習慣は考えものだと思います。 

そう遠くない将来、遺伝子検査が普及していくのは確実です。

たとえば、がん治療では既にBRCAのような遺伝子変異のチェックや、薬剤選択のための遺伝子検査が始まっています。

がん治療後のフォローは地域のクリニックで担うことになりますが、遺伝子変異の有無でフォローの仕方は異なります。当然クリニックの先生方も患者の遺伝情報という重大な個人情報に接することになるわけです。

それを守る受け皿づくりが、今後のクリニックに共通して求められる課題ではないかと考えます。 

そんなことを考えながら食べていたらラーメンがのびてしまい、替え玉を注文しました。もちろん“無言”で。



選ばれるクリニックへのナビゲーション 


[プロフィール] 
中保 裕子(なかほ・ゆうこ) 
医療ライターとして全国のがん医療、地域医療の現場を中心に医療者、患者、家族へのインタビューを行うほか、新聞広告等での疾患啓発広告制作、製薬企業等のマーケティング調査の実績も多い。有限会社ウエル・ビー 代表取締役。  
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