さんだん會計事務所

建設現場で『パワハラ』を起こさないために必要なこと

24.04.02
業種別【建設業】
dummy
体育会系のイメージが強い建設業界は、さまざまな理由から『パワーハラスメント』(以下「パワハラ」)の多い業界だといわれています。
建設業界のパワハラは、上司と部下、先輩と後輩、同僚同士といった関係性だけではなく、元請け業者と下請け業者など、事業者にとっては雇用関係のない他社の従業員との間にも発生します。
もし、事業者が建設現場で起きたパワハラに対処しなかった場合、当事者から損害賠償請求を受ける可能性があります。
建設現場にパワハラが多い理由と、パワハラを起こさないようにする方法について解説します。
dummy

『パワハラ』の定義と建設現場で起こる理由

厚生労働省では『パワハラ』について、「優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害される、または身体的、精神的な苦痛を与えるもの」と定義しています。
建設現場における「優越的な関係」とは、指示を出す側と受ける側である事業者と作業員、上司と部下といった関係のほかに、元請け業者と下請け業者、二次請け業者と三次請け業者など、仕事を発注する側と受注する側といったケースも該当します。

また、その当事者がいなければ業務の遂行が困難になるという場合も、「優越的な関係」が認められるため、たとえ同僚や部下であっても、パワハラの加害者側になる可能性があることには留意しておきましょう。

建設業界にパワハラが多い理由の一つに、危険を伴う現場であることがあげられます。
高所作業や重い資材などを取り扱う建設現場では、一つのミスで自分や仲間を危険に晒してしまう可能性があります。
そうした命の危機に関わるミスなどに対して、咄嗟に大声を出してしまったり、指導に熱が入りすぎてしまったりといった場面が少なくありません。

指導も、注意を促しミスを防止するために必要な一般常識の範囲のものであれば問題ないでしょう。
しかし、明らかに指導の範囲を逸脱した過剰な叱責や罵倒だったり、「殴りつける」「物を投げる」といった攻撃的な行為だったりすると、パワハラになってしまいます。
事故が起きないようにするための指導は必要ですが、作業員を厳しく叱らなければならないときほど、とるべき言動についてよく考えるべきでしょう。

また、普段の人間関係も大切です。
たとえば、日頃から弟子や部下のことを思いやり、安全を第一に考えている親方が「危ないぞ、バカヤロウ!」と言ったとします。
親方の言い方こそ乱暴ではありますが、信頼関係が築けている弟子や部下にとっては、就業環境が害されるものでも精神的な苦痛を与えるものでもないことがほとんどでしょう。
しかし、普段からコミュニケーションを取っておらず、良好な関係が築けていない相手からの「バカヤロウ!」という発言は、受け取る側の意味も変わってくる可能性が高いです。

これもパワハラ? 6種類の言動に要注意

建設現場は限られた人員で作業を行う閉鎖的な空間であり、今なお圧倒的な男性社会で横柄な態度をとる人も少なからずいるため、パワハラが起きやすい環境にあります。
また、教育マニュアルなどが整備されておらず、教育方法が人によって異なり、行き過ぎた指導になりやすいことも、パワハラが起きる要因の一つとなっています。

パワハラは大きく6つの類型に分けることができます。
殴る、蹴る、物を投げつけるなどは「身体的な攻撃」、相手の人格を否定するような暴言や侮辱、執拗な叱責などは「精神的な攻撃」にあたります。
仕事から外したり無視したりするのは「人間関係からの切り離し」に該当します。
また、未経験なのに工事をさせたり達成できないノルマを与えたりするのは「過大な要求」、逆に能力に見合わない簡単な作業を長期にわたってさせるのは「過小な要求」とみなされます。
また、交際相手を執拗に尋ねたり所有物を勝手に撮影したりするようなプライバシーの侵害も、「個の侵害」に該当します。

こうしたパワハラを防ぐためには、コンプライアンス研修などを行うと同時に、教育マニュアルなどを作成して、現場レベルで意識の統一を図ることが重要です。
必要に応じて1対1の面談を行なったり、相談窓口を設けたりすることも効果的ですし、パワハラの加害者に対する罰則の制定も抑止効果があります。

また、パワハラは異なる業者間においても発生します。
建設業界だけに限りませんが、下請け業者のなかには特定の元請け業者から受注する仕事に依存せざるを得ず、明確な力関係ができあがっていることがあります。

そういう関係があったとしても、事業主には従業員の安全を守る義務があります。
自社の従業員が元請け業者からパワハラを受けた際に会社として何も対応しなければ、損害賠償請求を受ける可能性もあります。
パワハラの事実が認められたのであれば、元請け業者に対して厳重な措置を求めると同時に、下請法に抵触している可能性もあるので、弁護士や中小企業庁への相談も視野に入れましょう。

自社の従業員が加害者にならないようにすることはもちろん、従業員が被害者になった場合に会社として正しい対応がとれるよう研修を行うなどして、パワハラについての理解を深めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年4月現在の法令・情報等に基づいています。