さんだん會計事務所

会社分割時に労働者を守る、労働契約承継法とは

22.08.30
ビジネス【企業法務】
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会社が行っている事業を別会社に包括的に引き継ぐことを『会社分割』といいます。
会社分割は、事業に関連する義務や権利、資産や人材なども包括的に別会社に移すことになるため、会社法によって細かく手続きや必要な項目などが定められています。
特に、労働者については、会社法の特別法である『労働契約承継法』によって規定が定められており、これを無視して会社分割を行うことはできません。
今回は、会社分割時の労働者の保護を目的に制定された労働契約承継法について説明します。
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会社分割のメリットと労働者の権利

自社の事業を別会社に引き継ぐ場合、既存の会社に引き継ぐケースと、新しく設立した会社に引き継ぐケースが考えられます。
既存の会社に事業を承継させることを『吸収分割』と呼び、新しく設立した会社に事業を承継させることを『新設分割』と呼びます。
吸収分割は経営者の高齢化などによる事業承継やM&Aの際に行われ、新設分割は組織再編や事業の整理などを目的に行われます

また、それらの会社分割を行う会社のことを『分割会社』といい、吸収分割でも新設分割でも、分割会社の事業を承継する立場の会社のことを『承継会社』といいます

会社分割では、必ずしもすべての事業を引き継ぐ必要はなく、たとえば分割会社に事業Aと事業B、2つの事業がある場合、事業Bのみを吸収分割したり、新設分割したりすることもできます。
一部の事業を承継会社に引き継ぐことで、倒産リスクを分散できるほか、主要事業へ経営資産を集中させることも可能です。
また、税負担の軽減や、意思決定がスムーズになるなどのメリットもあります。

しかし、事業Bに従事していた従業員たちは、承継会社に転籍することになるため、「これまで通りの環境で働けるのだろうか」という不安にかられてしまいます。
転籍する必要のない事業Aに従事している従業員も、会社分割によって労働環境は変わるため、他人事ではありません。

かつては、承継会社に転籍した従業員の労働環境や契約内容が悪化し、結果として退職や解雇につながってしまうこともありました。
そのような事態を避けるため、会社分割に伴う労働者の権利を守ることを目的とした『会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)』が2000年に制定されました。

会社分割を行う際には、この労働契約承継法に基づいて手続きを進める必要があります。


従業員との協議や通知義務

労働契約承継法で定められているのは、主に労働者と協議する義務と、労働者や労働組合に通知する義務、そして、労働協約の承継等に関する規定です。

まず、会社分割を進めるにあたって、会社分割についての理解と協力を得るために従業員と協議する必要があります。
労働組合があれば労働組合に、労働組合がなければ、労働者の過半数の代表者と協議します。
協議なしで会社分割を進めることはできません。
また、協議の場で会社分割についての詳細を説明する必要もあります。
協議によって合意を得ることができれば、書面に残しておきましょう。

続いて、会社分割に関する事項を労働者や労働組合に通知します。
通知する必要があるのは、承継される事業に主として従事する労働者で、前述の例でいえば、事業Bに従事していた従業員です。
しかし、事業Bに従事していなくても、承継会社へ転籍させることを考えている従業員に対しては通知をする必要があります。

通知には期限が決まっており、株式会社は分割を承認する株主総会が開催される2週間よりも前の日になります。

通知する内容は、『労働者が承継会社に承継されるか否かに関する分割契約等の定めの有無』を筆頭に、会社分割の効力発生日や承継される労働者の範囲などです。
また、異議申し立ての期限日なども通知内容に含まれます。
なぜなら、一部の労働者には異議の申し立てが認められているからです。

異議の申し立てができるのは、承継される事業に主として従事する立場であり、なおかつ分割会社に残留する従業員と、承継される事業に主として従事していない立場であり、なおかつ承継会社に転籍する従業員です。

分割会社は、該当の労働者から異議申し立てがあった場合、適切に対応することが定められています。
異議申し立てを受けた場合、前者については労働条件を維持したまま承継会社に転籍させ、後者については労働条件を維持したまま分割会社に残留させる必要があります。

労働契約承継法の規定に従わない場合は、法律違反となり、ケースによっては会社分割が無効になってしまう可能性もあります。
会社分割は従業員とよく話し合い、協力を取り付けたうえで慎重に行っていきましょう。


※本記事の記載内容は、2022年8月現在の法令・情報等に基づいています。