さんだん會計事務所

引越し作業など、従業員に“変則的な仕事”をさせるときの賃金の取り扱い

20.12.22
ビジネス【労働法】
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会社を経営していると、会社の移転に伴う引越しや社内の清掃など、いわゆる変則的な仕事が発生することがあります。
大手企業であれば外注の業者に依頼するところですが、中小企業の場合は外注コストを割くのが難しく、従業員総出で行うことも多いでしょう。
こういった通常業務ではない仕事は、労務管理上どのように捉えればよいのでしょうか。
今回は、労働基準法と照らし合わせて、変則的な仕事をさせる場合の賃金の取り扱いなどについて解説します。
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『労働時間』の範囲を知っておこう

昨今、テレワークの拡大によって、オフィスの移転や縮小を検討する動きが高まっています。 
これまでよりもコストのかからないコンパクトな事業所を求める傾向が強いようです。

オフィスを移転させるためには引越しをする必要がありますが、従業員が数人しかいない中小企業であれば、社長が指揮をとり、社員が梱包などの引越し作業をすることも多いでしょう。
その場合、引越し作業は業務にあたるのでしょうか。

まず、会社の移転に伴う引越し作業を従業員に行わせること自体は法的に問題ありません。
ただし、それが強制だったのか、それとも任意だったのかによって、労務管理上の扱いは大きく異なります。
引越し作業が“強制”なのであれば、事業者が『業務命令権』を行使した形になるため、引越し作業は業務にあたることになり、通常の労働と同様に賃金を支払う必要があります。
一方、“任意”であれば、業務にはあたらないと考えられるため、賃金の支払い義務は発生しないことになります。
ただし、形式上は“任意”としていた場合でも、引越し作業に協力しなかったことを理由に減給したり、人事評価で不当な評価を下したりした場合には、実質的には“強制”とみなされます。
また、断ることのできない暗黙の空気があった場合も、“強制”と判断される可能性はあります。


法定労働時間外に引越し作業をさせる場合

引越し作業が業務にあたる場合、それが労働基準法が定める法定労働時間(1日8時間)の範囲内であれば通常賃金を支払います。
もし、法定労働時間外や法定休日(週1日または4週を通じて4日)の作業となった場合は、労働基準法第37条に基づいて、以下の割増の賃金を支払わなくてはなりません。

法定労働時間外の労働:25%以上の割増賃金
●法定休日の労働:35%以上の割増賃金
●深夜労働(午後10時から翌日の午前5時):25%以上の割増賃金

また、時間外労働が深夜に及んだ場合は、時間外労働+深夜労働で50%以上の割増賃金、休日労働が深夜に及んだ場合には、休日労働+深夜労働で60%以上の割増賃金を支払うことになります。

引越し以外にも、従業員に始業時間前の清掃を持ち回りでさせる場合や朝礼を命じている場合なども、当然ながら業務とみなされます。
時間外労働については上記と同様の割増賃金が発生することも押さえておきましょう。

なお、こうした変則的な仕事をさせる際には、休憩時間の扱いについても注意が必要です。
通常、従業員の昼休みは労働時間には該当しませんが、たとえば昼休みに引越し作業をさせたり電話番をさせたりすると、その時間は労働時間となり、賃金が発生します。
また、労働基準法では、1日の労働時間が6時間を超える場合には45分以上、労働時間が8時間を超える場合には60分以上の休憩を与えなければいけないと定められています。
引越し作業や電話番をさせている間は休憩時間にはあたらないので、それ以外で別途休憩時間を与えなければ、法律違反になることにも注意しなければなりません。


従業員に特別手当を支給する場合

引越しや清掃などの変則的な仕事をさせる場合に、特別手当を支給する企業もあります。
手当は、従業員のモチベーション向上や、不満の抑制などに効果的ですが、原則として下記の『除外賃金』以外の手当は、すべて『通常の労働時間または労働日の賃金』となり、割増賃金を算出するための基礎となる賃金に算入されることになります。

【除外賃金】
(1)家族手当
(2)通勤手当
(3)別居手当
(4)子女教育手当
(5)住宅手当
(6)臨時に支払われた賃金
(7)1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

たとえば、特別手当が一律1,000円だとしたら、『通常賃金+1,000円』に時間外労働や休日労働の割増率を乗算することになります。

以上を踏まえると、たとえ変則的な仕事であっても、できるだけ通常の労働時間の範囲で終わらせるように調整するのがコスト面から考えても妥当でしょう。
また、変則的な仕事をいきなり従業員に指示するのではなく、あらかじめ全従業員の同意を得ておくことも大切です。
従業員が気持ちよく働けるように配慮していきましょう。


※本記事の記載内容は、2020年12月現在の法令・情報等に基づいています。