医療現場で導入が進む『コーチング』の役割
近年、医療現場における「コーチング」が注目を集めています。
コーチングとは個人やチームが掲げる目標を達成したり、潜在能力を引き出したりするサポートプロセスのことで、スポーツやビジネスの世界ではすでに広く活用されています。
なぜ、医療の現場でもコーチングが導入され始めているのでしょうか。
今回は、コーチングの導入が進む背景や、コーチングのメリット、コーチングの種類などを解説します。
相手から答えを引き出すサポートプロセス
コーチングは指導や教育ではなく、質問や傾聴を通じて、相手がみずから答えを見つけ、目標達成へと導く対話型のサポートプロセスです。
医療現場ではメディカルコーチや看護コーチなど、コーチングの専門家が医療スタッフの潜在能力を引き出し、自己成長を促す役割を担います。
医療現場は、高度な専門性と多様な人間関係が複雑に絡み合う非常に厳しい環境です。
医療スタッフは患者とのコミュニケーションはもちろん、同僚とのチームワークや自己成長など、さまざまな課題を抱えています。
このような状況下でコーチングは特に効果を発揮し、医療スタッフの能力開発やモチベーションの向上によい影響を与えます。
さらに、問題解決能力や決断力、コミュニケーション能力なども改善させ、結果的に医療の質の向上につながります。
目標を共有して、お互いを尊重し合いながら協力することで、チームワークも強化されるでしょう。
また、コーチングは医療スタッフの組織への帰属意識を高めることにもなり、離職率を低下させる効果があるといわれています。
対象に合わせたコーチングを実施する
医療現場でコーチングを実施するには、まず対象を決める必要があります。
医療現場におけるコーチングは、規模によって「個人コーチング」「チームコーチング」「組織コーチング」に区分され、それぞれに合わせたコーチングを行うことになります。
ちなみに、コーチングを行う場合は、外部のコーチングの団体や協会に所属するコーチに依頼するのが一般的です。
個人コーチングは個々の医療スタッフのキャリア開発や目標達成を支援するコーチングです。
新卒の看護師が対象であれば、コーチは患者とのコミュニケーションや医療現場への適応、将来のキャリアパスなどについての相談を受け、必要なサポートを行います。
医師を対象にしたコーチングは、新しい治療法の導入やリーダーシップの強化、ワークライフバランスの改善についての相談を受けることになります。
こうした個人コーチングは、個々の医療スタッフの強みを引き出し、弱みを克服するための具体的な行動計画を立てる手伝いをすることがメインになります。
一方、チームコーチングはチームの目標設定やコミュニケーションの改善、問題解決を支援します。
多職種連携チームをコーチングする場合は、異なる専門性を持つ医療従事者間の連携強化や患者中心のケアの実現が目標になります。
コーチはチームメンバー間の信頼関係を築き、チーム全体の目標達成をサポートする立場になります。
また、同じチームコーチングでも、看護部をコーチングするのであれば、チーム内の意見交換やコミュニケーションを促進することがポイントになります。
看護師の離職率が高く、チームワークが円滑ではないある病院でチームコーチングを導入したところ、看護師間のコミュニケーションが改善され、チームワークが強化されたという事例もあります。
その病院では、コーチングの結果、看護師の離職率も低下しました。
そして、組織コーチングは組織全体の変革を支援する、より高度なコーチングです。
病院全体の変革を目的とするのであれば、患者中心の病院づくりや質の高い医療の提供、働きやすい職場環境の整備などをサポートします。
特定の部門の改革は、新しい医療技術の導入や業務効率化、コスト削減などの支援によって実現が可能です。
組織コーチングのコーチは、組織のビジョンを明確にして、変革を成功させるための戦略を立案する能力が求められます。
こうしたさまざまなコーチングを導入するには、外部のコーチへの支払いや内部のスタッフの育成費用といったコストがかかります。
場合によっては、医療機関の内部でコーチを育成することで、コスト削減を図ることも可能です。
また、組織によってはコーチングの実施に対して抵抗感を持つ人がいるかもしれません。
抵抗感を減らすためには、コーチングを導入する目的を明確にし、期待される効果を全スタッフに周知する必要があります。
医療現場におけるコーチングは、医療の質の向上やチームワークの強化、スタッフの成長など、多くのメリットをもたらします。
ただし、コーチングの導入は一朝一夕にできるものではありません。
外部の専門家とも相談しながら、効果的な方法を探っていきましょう。
※本記事の記載内容は、2025年3月現在の法令・情報等に基づいています。