新薬から診断方法まで『認知症』の最前線に迫る
認知症とは、病気などによって脳の神経細胞の動きが徐々に変化し、認知機能が低下して、社会生活に影響が出る状態のことを指します。
日本において、認知症患者は年々、増加傾向にあります。
患者が増え続けるなか、医師は認知症の早期発見や支援などに努めなければいけません。
認知症患者とその家族が頼れるのは、主に地域の「かかりつけ医」です。
新しい治療薬や簡易的な検査方法などが注目を集める認知症治療の『最前線』を把握しておきましょう。
高齢化と共に増える続ける認知症患者
高齢化が進む日本では、認知症患者も増加傾向にあり、厚生労働省の研究班による調査では、2022年時点で約443万人だった認知症患者が、2030年には523万人、2050年には587万人、2060年には645万人になると推測されています。
現在、高齢者のうち、およそ7~8人に1人が認知症患者であり、さらに認知症の前段階といわれている軽度認知障害を含めると、その割合はより高くなります。
ちなみに、軽度認知障害は英語の「Mild Cognitive Impairment」の頭文字を取って「MCI」と呼ばれ、MCIの患者は1年間で0.5~1.5割の人が認知症に移行するといわれています。
ただし、MCIの段階で処置を行えば、認知症への移行を遅らせることも可能です。
認知症やMCIの治療は、手術、非薬物療法、薬物療法の3種類に大別されます。
認知症の要因となる脳や神経系に異常を引き起こす脳膿瘍や慢性硬膜下血腫などは手術が必要です。
一方、リハビリテーションや心理療法、運動療法などの非薬物療法は根本的な治療ではないものの、無気力うつ症状などの改善や生活の質(QOL)の向上などに効果があります。
そして、症状を緩和し、進行を遅らせるために行うのが薬物療法です。
アルツハイマー型認知症に対する新薬が承認
認知症には脳梗塞や脳出血などで脳の血管が詰まって引き起こされる「血管性認知症」や、レビー小体という大脳皮質の神経細胞内の変化による「レビー小体型認知症」、脳の萎縮が要因となる「アルツハイマー型認知症」などの種類があります。
アルツハイマー型認知症の新しい治療薬として、2023年9月に、日本のエーザイ社とアメリカのバイオジェン社が開発した「レカネマブ」が薬事承認されました。
認知症の原因となる割合が最も高いのがアルツハイマー病で、日本におけるアルツハイマー型認知症の患者は全体の6割を超えています。
アルツハイマー病は脳に「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質が溜まることで、神経細胞が壊れ、最終的には脳が萎縮することで認知機能が低下します。
すでに日本で承認されている認知症治療薬は、神経細胞の伝達を調整する方法で症状を和らげるものがメインでしたが、レカネマブはアミロイドβを取り除く「抗アミロイドβ抗体」という薬で、これまでの認知症治療薬のアプローチとは異なるものでした。
厚生労働省のデータによれば、レカネマブを18カ月間投与することによって、認知機能の低下を約27%抑制することがわかっています。
また、2024年9月に承認された同じ抗アミロイドβ抗体の「ドナネマブ」は、臨床試験において18カ月の投与で認知機能の低下を29%抑制することが示されました。
ただし、抗アミロイドβ抗体はアルツハイマー病の根治薬ではなく、軽い症状の期間を引き延ばすことが目的の薬です。
MCIなどの認知症の早期段階の患者に使用する薬であることに留意してください。
研究チームがスクリーニング法を開発
抗アミロイドβ抗体は早期段階の患者に効果があるため、アルツハイマー病の疑いがある人をできるだけ早く見分けることが重要になります。
2024年11月には、慶應義塾大学医学部などの研究チームが、認知症の徴候と簡便な質問セットでアルツハイマー病病理を予測できることを発表しました。
アルツハイマー病は問診やMRI検査、アミロイドPET検査などによって判断されますが、通常は専門医や専門の設備が必要なため、簡単に診断できず、時間を要した結果、抗アミロイドβ抗体が適応できなくなってしまうケースもありました。
研究チームがこうした課題の解決のために開発した簡便なスクリーニング法は、アルツハイマー病の疑いがある人に簡単な質問をして、そのときのふるまいと回答で病気を見分けるというものです。
具体的には、問診時の患者の動作と3つの質問の回答で診断します。
155人を対象にした研究チームの実験によれば、問診時に医師からの質問に答えず、家族など同伴者の方を振り返って手助けを求めた人のうち87%が陽性でした。
また、「現在、困っていることはありますか?」「最近(3カ月以内)気になるニュースをあげてください」という質問に「ない」と答え、「現在楽しみはありますか?」という質問に対して具体的に答えた人のうち陽性だった割合は83%でした。
問診の一環として行うことのできるこのスクリーニング法は、アルツハイマー病の早期発見につながると大きな期待が寄せられています。
認知症に対する医療の充実は、社会全体の健康維持や福祉に寄与するものです。
高齢化が進むなかでも日進月歩の認知症治療について、学び続ける姿勢を忘れないようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2025年2月現在の法令・情報等に基づいています。