さんだん會計事務所

新法律が成立! 事業性に着目した『企業価値担保権』の創設

24.09.10
ビジネス【企業法務】
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2024年6月に『事業性融資の推進等に関する法律』が成立し、新たな担保制度として『企業価値担保権』が創設されることになりました。
企業価値担保権では、土地・工場などの有形資産に加え、ノウハウや顧客基盤などといった無形資産を含む事業全体を担保として認識できるようになります。
今回は、企業価値担保権の概要と創設されることになった背景、そして新たな担保制度によって見込める効果を解説します。

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スタートアップの資金調達を円滑に

企業が金融機関から融資を受ける際は、経営者保証(経営者個人が会社の連帯保証人になること)が求められていたり、不動産をはじめとする有形資産が担保として位置づけられていたりすることがほとんどです。
一方で、事業の実態や将来性に着目した融資(事業性融資)は普及があまり進んでいません。
そのため、不動産をはじめとする有形資産とは対照的に、企業独自の技術や特許、保有するブランドといった無形資産は、その企業にとっては重要な資産となりえますが、多くの場合、融資の実務上では担保価値として評価されてきませんでした。

こうした実態を受けて、以前より金融庁では事業性融資の促進に取り組んできましたが、現状の担保権を活用するケースでは、事業を評価して行う融資(事業性融資)は無担保となることが多く、不動産担保や経営者保証に依存しているというのが実情です。
しかし、こうした慣行に従うと、一般的に有形資産に乏しいことの多いスタートアップ企業などでは、十分な融資を受けられない可能性があり、このことが起業を妨げているのではないかという指摘がありました。
今回、創設されることが決まった『企業価値担保権』は、こうした不動産担保や経営者保証に依存した融資実務上の慣行を是正し、事業性融資をさらに推進する取り組みの一つとして考えられています。

企業価値担保権では、以前から担保の対象となっていた土地や建物に加えて、事業ノウハウ・知的財産権、顧客基盤などを含む無形資産も担保の対象にすることができます。
スタートアップ企業のように、成長力のある企業や有望な事業計画を有する企業であれば、将来キャッシュフローを含む事業全体の価値が担保の対象となります。
そのため、たとえ有形資産に乏しかったとしても融資を受けやすくなり、事業の継続や発展に必要な資金調達が円滑になる効果が期待されています。

企業価値担保権の活用で見込める効果

企業価値担保権の活用ケースとしては、主に(1)スタートアップ企業、(2)事業承継、(3)事業再生が想定されています。
前述のとおり、実務として定着している有形資産を担保とした融資では、有形資産を持たないことの多いスタートアップ企業が十分な融資を受けることはむずかしく、そのことが起業や事業発展の妨げになっていました。
しかし、企業価値担保権を活用することで、ノウハウや顧客基盤などの無形資産も担保価値として評価されることになり、こうした状況の改善が見込まれています。

次に考えられるのが、事業承継における活用ケースです。
従来の経営者保証を前提とした融資では、経営者が債務の返済義務を負うことになるため、事業承継時に新社長が経営者保証に抵抗を示すことがあり、これが円滑な事業承継の妨げになっていると問題視されていました。
しかし、この場合も企業価値担保権を活用して、事業全体に担保価値があると評価されれば、経営者保証なしでの融資実行が可能になります。
なお、こうしたケースを想定して、企業価値担保権を活用する場合は、一部の例外を除き、経営者保証の利用を制限することも定められており、経営者保証に依存しない融資慣行の確立が期待されています。

最後に、事業再生に取り組む事業者も、企業価値担保権の恩恵を受けることができます。
不採算部門を整理する際、担保の目的となっている不動産の処分が必要となり、有形資産が大幅に減少することがあります。
こうした場合、現行の不動産担保を前提とした融資では、事業再生に十分な資金調達が困難になるケースが想定されますが、企業価値担保権を活用し、残す事業に担保価値があると認められれば、融資を受けやすくなるというメリットがあります。

いずれの場合においても、借り手(事業者)の事業全体の価値が担保となるため、貸し手である金融機関には、借り手の企業価値を把握する能力が求められるようになります。
加えて、借り手の事業全体の価値が担保となるため、借り手の事業に対する貸し手の関心が高まり、タイムリーな経営改善支援が促進されるという効果も期待されています。

企業価値担保権の創設は、日本における事業性融資を推進する取り組みとして、大いに注目されている施策です。
しかし、成立したばかりということもあり、普及にあたっては今後の認知度向上や利用促進が鍵となるでしょう。
とりわけ、企業価値担保権の利用にあたっては信託契約を用いる必要性があるなど、手続きの煩雑化や管理コストの増大が予想されており、活用が想定通りに進まないのではないかという懸念もあげられています。
そのため新法では、企業価値担保権の活用などを支援する組織として「認定事業性融資推進支援機関」を整備するなど、官民が連携して、事業性融資を積極的に推進していく体制の整備が予定されています。
今後の動きに注視していきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年9月現在の法令・情報等に基づいています。