税理士法人大沢会計事務所

消費税を『簡易課税』で申告するメリットと適用の要件

23.10.24
ビジネス【税務・会計】
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消費税の申告の際には、売上にかかった受取消費税から仕入れにかかった支払消費税を差し引く『仕入税額控除』の計算を行います。
こちらは、生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、税が累積しない仕組みがとられています。
しかし、すべての取引について控除額を計算するのは非常に手間と時間がかかります。
そこで、通常の計算方法である原則課税のほかに、『みなし仕入率』をもとに納税額を求めることのできる『簡易課税制度』が設けられています。
インボイス制度のスタートに伴い免税事業者から課税事業者となった事業者にも関係する、簡易課税制度について説明します。
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消費税額を求めるには原則課税か簡易課税

消費税を申告する際に原則課税で仕入税額控除の計算を行う場合は、売上にかかった受取消費税から仕入れにかかった支払消費税を差し引き、その差額を納税することになります。
しかし、消費税は取引の内容によって、課税対象となる『課税取引』と、課税対象にならない『不課税取引』や『非課税取引』が存在し、原則課税で計算する際にはそれぞれ分けて計算・管理しなければいけません。

不課税取引は給与や出資に対する配当、寄附、贈与などの消費税が発生しない取引のことで、非課税取引は土地や有価証券、商品券などの譲渡など、本来は消費税がかかるものの、社会政策的配慮などにより消費税を課すのにふさわしくないとされている取引のことを指します。

さらに、2023年10月1日からスタートしたインボイス制度の導入によって、仕入税額控除が行なえるのは、適格請求書発行事業者が発行する適格請求書の形式に則った請求書や領収書のみになりました。
原則課税で仕入税額控除の計算をするには、適格請求書発行事業者の登録番号が記載された適格請求書と、記載されていない請求書や領収書を分けて管理する必要があります。

しかし、請求書などを分けたうえで、すべての取引について控除額を計算していたのでは、手間も時間もかかってしまいます。
特に規模の小さい中小事業者が負う事務負担は、計り知れません。
そこで、正確な納税額を求めさせるのではなく、『みなし仕入率』をもとに、おおよその納税額を算出して納税させるという、中小事業者の事務負担の軽減を目的とした『簡易課税制度』という制度が設けられています。
簡易課税に使用するみなし仕入率には下記の通り、6つの区分があり、業種によって割合が異なります。

第1種事業:90% 卸売業
第2種事業:80% 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)
第3種事業:70% 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業
第4種事業:60% 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業
第5種事業:50% 運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)
第6種事業:40% 不動産業

課税事業者はそれぞれ該当するみなし仕入率を受取消費税に掛けて、みなし仕入税額控除を算出し、さらに受取消費税から差し引くことで納税額を求めることができます。

消費税の計算が簡単に&節税効果もあり?

簡易課税の最大のメリットは、計算する際に仕入れにかかった支払消費税の請求書や領収書が不要になり、事務負担を減らせるところにあります。
簡易課税で必要なのは、あくまで売上にかかった受取消費税だけなので、課税取引の有無や適格請求書の形式に沿っているかどうかなどは気にする必要がありません。

また、簡易課税で計算することで、業種によっては節税になる可能性もあります。
たとえば、サービス業を営む事業者のある期の売上にかかった受取消費税が40万円で、仕入れにかかった支払消費税が15万円だったとします。
その場合、原則課税で計算すると納税する消費税は「受取消費税40万円-支払消費税15万円」で25万円になりますが、簡易課税の場合は、「受取消費税40万円-(受取消費税40万円×みなし仕入率50%)」となるため、納税する消費税は20万円で済むことになります。

こうしたメリットのある簡易課税制度ですが、誰もが利用できるわけではありません。
簡易課税制度の適用を受けることができるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、『消費税簡易課税制度選択届出書』を事前に提出している事業者に限られます。
基準期間とは、消費税の計算・申告を行う時点(課税期間)から原則として個人事業者については前々年、法人については前々事業年度での期間を指し、課税売上高とは、消費税が課税される取引の売上高で、その金額が5,000万円以下になっている必要があります。
消費税簡易課税制度選択届出書は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに所轄の税務署に提出しましょう。

インボイス制度によって、免税事業者から新たに課税事業者になった事業者は、緩和措置の一つとして、納税額が売上にかかった受取消費税の2割に軽減される『2割特例』が適用されます。
しかし、期限は2026年9月30日までとなっており、期限を過ぎてからは原則課税か簡易課税で納税額を計算することになるため、注意が必要です。

インボイス制度の導入によって、さまざまな業務負担の増加が見込まれます。
みなし仕入率を用いた簡易課税制度の適用が受けられるのであれば、期限を過ぎてから慌てることのないように、早い段階で準備をしておきましょう。


※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。