税理士法人大沢会計事務所

建物の価値を下げずにコスト削減! 建設における『VE』とは?

23.04.04
業種別【建設業】
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利益率を向上するために、品質を下げたり、作業工数を減らしたりして経費の削減を図ることを『Cost Down(コストダウン)』といいます。
また、製品のサービスや機能などの価値を維持したまま、コストダウンを行う手法のことを『Value Engineering(バリューエンジニアリング)』(以下、VE)といいます。
VEは、これまで主に製造業やサービス業、建設業などで取り入れられてきました。
その需要は、さらに高くなってきています。
そこで今回は、建設業におけるVE提案の流れなどを説明します。
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建設のどの段階でVEを行うことになるのか

VEは『価値工学』『価値技術』などと訳される通り、価値や機能を維持しながらコストを低減する技術のことです。
1947年にゼネラル・エレクトリック社の技術者であったL.D.マイルズ氏によって開発されました。
建設業界でもVEの有用性は認められており、VEを踏まえて提案を行う『VE提案』は既に業界に浸透しています。
提案内容の幅は広く、基本計画や設計に関わる変更を提案する場合もあれば、図面や仕様書、発注先の変更などについて提案する場合もあります。

現在のようにVE提案が重視されるようになった背景には、建築費の高騰があります。
国土交通省の発表している『建設工事費デフレーター』によると、基準となる2015年度を100とした場合、2020年度には107.9、2021年度は113.2、2022年11月には123.1であり、その上昇傾向が見て取れます。
また、どんなに小さな戸建住宅でも、建築費は一千万円程度かかるのが一般的ですが、建築費の上昇が続くなか、施主などからの建築業者に対するコスト削減の要望は、強さを増すばかりといえます。

かつての受注者は発注者から指定された通りに施工し、指示された品質を確保する方法が主流でした。
しかし現在では、受注者から発注者へ品質とコストの両方を意識したVE提案が行われています。
設計や施工の段階で受注者側がどのようなVE提案を出せるのかが、受注先を決める決め手ともなっているのです。


VE提案は初期段階が最も効果的

VE提案は建設・建築プロジェクトの各段階で出され、提案された段階によって目的や内容、効果が大きく変わります。
各段階におけるVE提案について順を追って確認してみましょう。

VE提案は、一般的には基本的な計画や設計の段階で行います。
建築は発注者の要望をくみ取りながら、基本計画を立てることになります。
この時点で建設業者は概算の建設工事費の見積もりを出し、この見積が発注者の予算と合致しない場合に、VE提案を行います。
たとえば予算が8,000万円で、概算の建設工事費が1億円なら、建設業者は2,000万円を削減するためのVE提案が必要です。

この基本計画の段階で行うVE提案は、構造計画や平面計画に無駄がないか、設備計画で施設に見合ったグレードのものを使用しているかなどを再考します。
VE提案により計画が予算に沿うものになれば、具体的な基本設計や実施設計に落とし込んでいきます。
しかし、この段階で概算の建設工事費を算出した結果、予算をオーバーするケースもあります。
そのような場合は、さらにイメージや機能に影響のない範囲で外装材やデザインの変更、設備や資材の調達方法など、より細かな工程に変更を加えて予算に近づけるVE提案が必要となります。

ときには発注者からあらかじめVE案を求められることもあるので、計画と設計、両方の段階で行えるVE提案を意識しておくとよいでしょう。


単なるコストダウンにならないためには

VE提案は工事が始まってから必要になる場合もあります。
実施設計の段階で決まった建設工事費は現実に則したものになっていますが、それでも追加費用が発生するケースはあります。

発注者が追加費用の支払いに応じることができない場合、建設業者は着工後であってもさらなるVE提案を出していく必要があります。
そのようなときは設備を国内メーカーから海外メーカーに変えたり、内装材を安価なものにしたりといった変更が考えられます。
しかし、機能や品質を下げる単なるコストダウンにはなってはいけません。
変更によって出てくる影響を把握したうえで、基本計画で提案した機能や品質にできるだけ近い提案になるように調整することが大切です。

ただし、着工後のVEによるコストダウンの効果はそこまで大きくないといえます。
延床面積を減らすことは全体の建設工事費の大きな圧縮になりますが、照明器具を一つ変えたくらいではコストダウンにつながりません。
それでも着工後の予期せぬ追加費用などの発生に備える場合は、建設工事費に『予備費』を計上しておくことも有用です。
予備費は、イレギュラーな事態に対応するための余分な予算のことで、施行の途中でデザイン変更や設備のグレードアップを求められた場合などにも使用できます。
建設工事費の見積もりを出す際に発注者の合意を得ておき、予算に組み込んでおくことが大切です。

VE提案は、設計や施工といった各段階において、機能や品質の低下を招くことなくコスト削減を図るためのものです。
反対に予算に余裕がある場合に、機能や品質を向上させることもVEに含まれます。
VE提案に取り組む際は、品質とコストの最適なバランスを検討し、受注者の要望に沿った提案をできるよう心がけましょう。


※本記事の記載内容は、2023年4月現在の法令・情報等に基づいています