税理士法人大沢会計事務所

複数事業労働者への労災保険の保険給付が変わりました

20.12.03
人事・労務お役立ち情報
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令和2年9月1日から改正労災保険法が施行され、複数の会社等に雇用されている労働者の方々(複数事業労働者)への労災保険の保険給付が見直されました。
◆「複数事業労働者」とは? 

原則として、被災した(業務又は通勤を原因とするケガ・病気・障害・死亡が発生した)時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者のことをいいます。 

※被災した時点で複数の会社について労働契約関係にない場合であっても、その原因や要因となる事由が発生した時点で、複数の会社と労働契約関係であった場合には「複数事業労働者に類する者」として、今回の改正の対象となり得ます。 

また、複数の就業について特別加入をしている者なども、「複数事業労働者」に準じて改正の対象となり得ます。 



◆「複数事業労働者への労災保険の保険給付の見直し」のポイントは、次の2点です。


1.賃金額の合算(給付基礎日額の算定)

複数事業労働者については、各会社で支払われている賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が決定されるようになりました。

例えば、会社Aから20万円、会社Bから15万円、と2社から賃金が支給されている複数事業労働者を例に考えてみます。

改正前は、会社Bで労働災害が発生した際に会社Bの賃金額の「15万円」を基に保険給付を算定していましたが、今回の改正によって、同様のケースの場合、2社の賃金額の合計「35万円」を基に保険給付が算定されることになりました。

・今回の改正により保険給付額の算定方法の変更がされるのは、給付基礎日額を使用して保険給付額を決定する給付です。

・業務災害や通勤災害の別にかかわらず、複数事業労働者であれば対象となります。

・この改正に伴い、各種保険給付の請求書に「その他就業先の有無」を記載する欄が追加され、また、一部については、副業先の賃金額等の証明をするための別紙の記入が必要となります。

→保険給付を請求する社員が複数事業労働者であるときは、貴社で労災事故が起こっていない場合でも、賃金額等の証明をしてあげる必要が出てくる可能性があります。


2.負荷の総合的評価(複数業務要因災害に関する保険給付の創設)

複数の会社等の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して、労災認定の判断をするようになりました。

複数の会社等の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡についても、労災保険給付の対象となります。新設されたこの災害を「複数業務要因災害」といいます。なお、対象となる傷病等は、脳・心臓疾患や精神障害などです。

複数事業労働者については、1つの事業場のみの業務上の負荷(労働時間やストレス等)を評価して業務災害に当たらない場合に、複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できるか否かを判断します。
これにより労災認定されるときには、「複数業務要因災害」に関する各種の保険給付が支給されます。

・1つの事業場のみの業務上の負荷を評価するだけで労災認定の判断ができる場合は、これまでどおり「業務災害」に関する各種の保険給付が支給されます。この場合でも、その給付額は、全ての就業先の事業場の賃金額を合算した額を基礎として計算されることになります。


☆今回の改正の対象となるのは、複数事業労働者(類する者等を含む。)の方の労災保険給付のみで、1つの事業場でしか働いていない方についての労災保険給付については、今回の改正による変更はありません。
社会保険労務士 大沢富士夫