社会保険労務士法人杉原事務所

民法改正でどうなる? 知っておきたい賃貸借契約上の変更点

18.12.20
ビジネス【法律豆知識】
dummy
2017年5月に成立し2020年4月から施行予定の改正民法(債権法の改正と呼ばれているものです。以下『本件改正』といいます)において、大きく変わるものの一つが保証契約です。

個人に対する保護の方策を充実させるため、基本的ルールの変更がなされており、賃貸借契約の際に締結することの多い保証契約にも影響を与えるため、不動産業者や保証会社、不動産オーナーにおいても関係します。 
今回は、保証契約に関わる民法の重要な変更点と、その概要と対応をご説明します。
dummy
個人保証における保護がより強化される

2005年の民法改正において、すでに、貸金の際に個人が保証契約(ほとんどの契約が連帯保証契約です)をする場合に、当該保証人となる個人の保護が図られました。本件改正においては、もう一歩進んで、貸金以外の契約に関しても保証契約を締結する個人の保護が図られています。

『根保証』とは、一定の継続的な取引から生じる債務者の将来的な債務(増減変動する可能性があります)を保証する契約のことをいいます。
期限・金額・取引の種類といった限定のない根保証を包括根保証、期限・金額・取引の種類に限定のあるものを限定根保証といいます。
よく用いられる場面としては、金融機関との取引に係る債務者の保証や賃貸借契約における賃借人の保証です。

仮に、限定根保証であっても、根保証をした保証人は、将来的にどのような債務を負担するか明らかではないことがあります。
また、賃貸人と保証人が連帯保証契約を締結した後、例えば、賃借人による長期間の賃料未払いといった様々な事情で、賃貸人が保証人に対して過大ともいえる請求(保証契約に基づく履行請求)をするということがありました。
そのような背景もあったため、本件改正では、保証人保護として、個人が根保証する場合、『極度額(金額の上限)』を定めなければ保証契約の効力は生じないとされました。

従来は『貸金』のみに定められていたものが、改正後はすべての保証契約にこの制限が及ぶことになり、連帯保証人保護がより強くなったといえます。


国土交通省も標準契約書(ひな型)を改定

本件改正や、近年の家賃債務保証業者を利用した契約の増加等を踏まえて、国土交通省では2018年、次のように『賃貸住宅標準契約書(ひな形)』を改訂しました。

(1)近年、住宅の賃貸借契約においては、新規契約の約6割が機関保証を利用していることを踏まえ、従来、連帯保証人による借主の債務保証のみを規定していた標準契約書について、新たな『家賃債務保証業者型』を作成しています。

(2)本件改正で個人根保証契約に極度額の設定が義務化されたこと等を踏まえ、従来の標準契約書を「連帯保証人型」として極度額の記載欄等を設けるとともに、具体的な極度額の設定に資するよう、家賃債務保証業者の損害額や明渡しに係る期間等をまとめた参考資料を作成・公表しています。

(3)両標準契約書について、原状回復や敷金返還の基本的ルールの明記等その他の民法改正の内容を反映しています。

今回改訂された上記の『賃貸住宅標準契約書(ひな形)』では、極度額についてはもちろん、その他の民法改正のポイントなどについても反映されていますので、参照されることをおすすめします。


常識に照らし合わせた極度額の定めが必要に

上記のとおり、本件改正によって、賃貸借契約の際に賃貸人と保証人との間で締結される連帯保証契約には、『極度額(金額の上限)の定めがなければ保証契約の効力が生じないことになります。
では、例えば、家賃月額10万円の賃貸借契約の賃借人の債務を保証するための保証契約において、極度額を1億円と定めた場合はどうでしょうか。
賃貸人からすれば、極度額が1億円であれば、損害等がどのように膨らんでも保証人に保証してもらえると考えるかもしれません。
しかしながら、上記の例では、極度額の定めがない保証契約と実質は変わりません。
このような極度額の定めは、公序良俗に反して無効と評価される可能性が高く、極度額の定めが無効となった場合、保証契約そのものも無効となってしまうと考えられます。
となると、賃貸人は、公序良俗違反で無効とならないような極度額を定めなければなりません。

最終的には、裁判例の積み重ねによって相場が形成されていくことになるのですが、現時点では、国土交通省が2018年3月に公表した『極度額』に関する参考資料も参考になると思われます。
ここでは家賃保証業者の損害額に係る損害額や、裁判所の判決における連帯保証人の負担額などの調査結果が公表されているため、実際に『極度額をどのくらいの金額に設定すべきか』の相場などの参考にすることができます。
オーナーとしては、まずは家賃額、原状回復費、損害賠償額などをすべて考慮したうえで、常識に照らし合わせた極度額の定めが必要となるでしょう。


賃貸借契約に関連するさまざまなトラブルを未然に防ぎ、スムーズに契約を履行するために行われる本件改正。
賃貸住宅事業の安定は、国民生活に欠かせない大切なものです。
2020年の施行に備え、理解を深めておきましょう。

参照URL
http://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000121.html