社会保険労務士法人杉原事務所

『労働安全衛生法』の義務と違反した場合のペナルティ

24.07.30
ビジネス【労働法】
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労働法の一つに『労働安全衛生法』という法律があります。
この法律は、高度経済成長期の労働災害急増がきっかけとなり、1972年に労働基準法から分離独立するかたちで制定されました。
労働安全衛生法の目的は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することで、事業者には労働者の健康保持や危険防止措置などが義務づけられています。
同法に違反した場合、行政処分や刑事罰などのペナルティを受けることになります。
労働安全衛生法によって事業者に定められている義務と、違反した場合のペナルティについて説明します。

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労働安全衛生法で事業者が守るべき義務

労働安全衛生法を進めるうえで、事業者が実施すべき事項は、主に『管理者・推進者等の選任』『委員会の設置』『危険防止措置』『教育の実施』『健康保持増進の措置』などです。

管理者・推進者等とは、危険防止や健康管理を監督する安全管理者や衛生管理者のことを指し、労働者が常時50人以上の事業所では衛生管理者を、また特定の業種では安全管理者も選任することが義務づけられています。
そのほか、事業者は事業規模や業種に応じて、安全衛生推進者や産業医などを置かなければいけません。

委員会とは、安全衛生に関して審議を行い、意見を聞く『安全委員会』や『衛生委員会』のことです。
業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業所では、衛生委員会の設置が義務付けられています。
また、安全委員会および衛生委員会を設置しなければいけないときには、それぞれの委員会の設置に代えて、その両方を兼ねた『安全衛生委員会』を設置することができます。

危険防止措置とは、労働者が設備や作業などによって怪我や病気をすることがないようにするための措置のことで、特に高所作業や危険物の取扱いなど、労災が起きやすい危険な作業においては、具体的な防止措置が定められています。

教育とは、労働者に対して事業者が行う安全衛生教育のことで、従業員を雇用するタイミングや作業を変更するときなどに実施する必要があります。
安全衛生教育は、労災の防止を目的に労働者が従事する業務の安全や衛生に関する知識を学んでもらうものです。
ちなみに、フォークリフトの運転などに代表される危険・有害業務は、安全衛生教育とは別の特別教育が必要になるので注意しましょう。

そして、健康保持増進の措置とは、作業環境測定の実施や、事業者が作業の管理や健康診断などによって、労働者の健康を守るための措置のことです。
通常の労働者に対しては1年に1回の健康診断が義務づけられており、一定の有害な業務に従事する労働者に対しては、配置換えおよび半年に1回の特定健康診断の実施が義務づけられています。

さらに、法改正によって2015年12月からは労働者のストレスチェックも導入されました。
常時50人以上の事業所は、衛生管理者やメンタルヘルス推進担当者が主体となって、1年に1回の選択回答形式のストレスチェックを労働者に行い、実施状況を労働基準監督署に報告しなければいけません。

違反の際に問われる行政・刑事などの責任

労働安全衛生法で定められている義務を怠ったり、従わなかったりした事業者は、労働安全衛生法違反となり、ペナルティを受ける場合があります。
ペナルティは『行政処分』『刑事罰』『民事責任』『社会責任』の4つです。

まず、違反の疑いがある事業者には、労働基準監督官による立入検査が行われ、違反が明らかになった場合には、都道府県労働局長や労働基準監督署長から是正するように勧告を受けることになります。
また、違反していなくても、労災の危険がある場合などは、使用停止命令や避難命令、立入禁止命令などが命じられることがあります。

このような行政処分と同時に、刑事罰を受けるケースも少なくありません。
罰則は違反の種類によってさまざまですが、たとえば健康診断を実施していなければ、同法の66条に違反していることになり、50万円以下の罰金が科されることになります。
労働安全衛生法の罰則は、違反者だけではなく法人も対象となる『両罰規定』となっており、事業者も罰せられます。

また、労災などによって労働者が死亡した場合は、刑法211条に規定されている業務上過失致死傷罪が適用されることもあります。
業務上過失致死傷罪の刑罰は、5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金となっています。

労災に基づく労働者の損害に関して、事業者は刑事罰だけではなく民事的な責任を問われることもあります。
精神的損害や財産的侵害については労災保険で保障されないため、被害者からその分の慰謝料を請求される可能性があることを留意しておきましょう。

労働安全衛生法に違反すると、行政、刑事、民事において責任を問われ、さらに信頼度の低下やイメージの悪化など、社会的な制裁を受けることにもなります。
こうしたペナルティを受けないためにも、労働安全衛生法を遵守しながら、労働者にとって安全で快適な職場環境を構築していきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。