グッドブリッジ税理士法人

もらい火でも損害賠償請求できない?『失火責任法』とは

22.08.30
ビジネス【法律豆知識】
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家財に損害が与えられた場合、通常は損害を受けた側が、損害を与えた側に不法行為の損害賠償を請求できます。
しかし、失火による損害に限っては、『失火責任法』という法律により失火者の責任が緩和されており、重大な過失がなければ、不法行為の損賠賠償責任を問うことができません。
では、重大な過失とはどのような過失なのか、失火責任法の内容について解説します。
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『失火責任法』の制定とその目的とは?

消防庁の発表した『消防白書』によると、2019年中の出火件数は約3万7,000件で、そのうち、失火は約2万7,000件と70%以上を占めています。
しかし、隣人の失火によって火が自宅に燃え移ったとしても、隣人に不法行為の損害賠償責任を問うことはできません。
なぜなら、失火責任法によって、失火者に重大な過失がない限り、原則として、失火者に対して民法709条に定める不法行為の損害賠償責任は問えないとされているからです。

失火責任法とは、明治32年に制定された古い法律です。
明治時代は、木造家屋が大半を占め、一区画に密集して建てられていました。
一度火事が起きると、延焼による損害は甚大となり、とても失火者一人にその責任を負わせることはできません。

そこで、最初に火を出した人の責任を軽減する目的で、失火責任法が制定されました。
この法律により、失火者は重大な過失がなければ、不法行為の損害賠償責任を問われることはありません。
なにより失火者自身も火災により家を失っていることが多く、損害賠償責任を果たす能力がないケースが多いのも、この法律が制定された理由です。

ただし、重大な過失がある場合は、この限りではありません。
重大な過失とは、最高裁判決によると「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す」とされています。

過去の裁判例では、石油ストーブの火をつけたままタンクに給油し、フタをきちんと締めていなかったせいで石油に引火して火災になった事例が、重大な過失であると認められました。
ほかにも、寝たばこをして出火したケースや、天ぷら油の入った鍋を火にかけたまま台所を離れて出火したケースも、重大な過失と認められています。

いずれの裁判例も、本人がわずかな注意で容易に危険が予測でき、それを避けることができたはずなのに、それをしなかったせいで失火に至っています。
失火者に重大な過失がある場合は、失火責任法で保護されず、不法行為の損害賠償責任に問われることがあるので、失火には最大限注意しなければいけません。


万が一に備えて常日頃から火災予防と保険の加入を

では、自分が隣人などから失火によって被害を受けた場合、その損害についてはどうなるのでしょうか。
失火責任法によって、自分が被害を受けても、その隣人に重過失がない限り、不法行為の損害賠償責任を問うことはできません。
自宅や家財道具が燃えてしまっても、自費で修繕や再建をすることになります。
そのためにも、万が一に備えて、常日頃から火災予防を徹底することはもちろん、火災保険の加入を検討することがよいでしょう
自分が火災を起こしてしまった場合だけでなく、他人の失火で被害を受けた場合も、火災保険に加入していれば損害に見合った補償を受けることができます。

また、賃貸で火を出した場合に、火災保険に加入していないと大変なことになる可能性があります。
賃貸で失火を起こしてしまった場合、重大な過失がなければ不法行為の損害賠償責任は問われません。
しかし、失火責任法で免れるのは、あくまで不法行為の損害賠償責任のみです。
通常、賃貸は入居者と家主の間で賃貸借契約を締結しており、入居者は部屋の原状回復義務を契約上負うことになります。
契約上の原状回復義務については失火責任法の適用範囲外のため、入居者は原状回復義務の不履行となり、家主から債務不履行に基づく損害賠償責任を問われることになります。

ただし、通常は家主が建物に対して火災保険を契約しているため、損害賠償責任を問われるケースはごくわずかです。
一般的に、入居者も賃貸借契約の際に火災保険に加入することがほとんどです。
もし心配であれば、加入している火災保険の契約内容を確認しておきましょう。

自分の身の回りに火災が起きた場合、その火災が重大な過失によるものとは限りません。
失火責任法について知り、もしものときに備えることが大切です。


※本記事の記載内容は、2022年8月現在の法令・情報等に基づいています。