グッドブリッジ税理士法人

知っておきたい! 歯科医師に有利な『優遇税制』

21.06.01
業種別【歯科医業】
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開業している歯科医師であれば、『社会保険診療報酬の所得計算の特例』はぜひ利用したい制度です。
これは、歯科医業や医業から生じる事業所得の総収入金額のうち社会保険診療報酬につき、実際にかかった経費ではなく、決められた割合の金額を経費とすることができるというものです。
開業医の経営安定と、医療の安定供給を目的とした制度とされ、適用できれば大多数の医院にとっては有益な節税対策となります。
今回は、この特例の概要と活用法について説明します。
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節税効率の高い『優遇税制』

事業所得のうち、課税の対象となるのは『収入-経費』であり、経費は支払った分を計上するのが一般的な方法です。
しかし、医師と歯科医師であれば、“医師優遇税制”として知られる『社会保険診療報酬の所得計算の特例』(租税特別措置法第26条)により、この経費を、収入額によって4段階に決められた割合を掛ける形で計上することができます。
実際にかかる経費よりも、特例で規定された割合で算出した概算経費のほうが、金額が大きくなるケースがほとんどなので、これが事業所得の圧縮になり、所得税や法人税を抑えられるというわけです。

細かい適用条件を見ていきましょう。
この特例を受けるための条件は、歯科医業または医業から生じる事業所得の総収入金額が7,000万円以下で、なおかつ社会保険診療報酬が、年間5,000万円以下の場合に限られます。

社会保険診療報酬の金額によって、以下を概算経費として計上することができます。

2,500万円以下……社会保険診療報酬の72%
2,500万円超~3,000万円以下……社会保険診療報酬の70%+50万円
3,000万円超~4,000万円以下……社会保険診療報酬の62%+290万円
4,000万円超~5,000万円以下……社会保険診療報酬の57%+490万円

たとえば、1年間の社会保険診療報酬が2,700万円で、実際の経費が1,000万円だったとします(ここではわかりやすく自由診療収入に関しては考えないものとします)。

特例を使わない通常の計算であれば、2,700万円から経費分の1,000万円を引いた1,700万円が課税対象の事業所得となります。

しかし、特例を使い、上記の表に照らし合わせてみると、2,700万円は、「2,500万円超~3,000万円以下」に該当します。
つまり、2,700万円の70%である1,890万円に50万円を加えた1,940万円が経費にできるというわけです。
この計算では、課税対象の事業所得は760万円となります。
通常の事業所得が1,700万円だったのに対し、特例の適用を受けた場合の事業所得は、940万円低い760万円になりました。
事業所得が低いほど節税効果は高くなるため、特に開業したての医師や歯科医師であれば、特例を使わない手はありません。

ただし、社会保険診療報酬が5,000万円を超えてしまった場合には、この特例の適用を受けることはできません。
たとえば、社会保険診療報酬が4,900万円と5,100万円で、さらに実際の経費がどちらも2,000万円だったとすると、4,900万円の開業医は、概算経費が3,283万円で事業所得が1,617万円となります。
しかし、社会保険診療報酬が5,100万円の開業医は、概算経費ではなく実際の経費が2,000万円なので、事業所得は3,100万円と、たった200万円の収入差で、2倍近い所得に対して課税されてしまうのです。

つまり、医業や歯科医業にとっては社会保険診療報酬が5,000万円を超えるかどうかが大きな分かれ目となるわけです。

一方で、実際にかかった経費が、決められた割合で算出した経費を上回った場合には、実際にかかった経費で計算することができます。
それであれば、報酬額が5,000万円を超えているかどうか細かく気にする必要はないでしょう。


社会保険診療報酬と自由診療収入がある場合

さて、この特例が適用されるのは、あくまで社会保険診療報酬の額が5,000万円以下の場合のみです。
もし、年間の総収入金額が社会保険診療報酬と自由診療収入で成り立っている場合は、経費は、社会保険診療と自由診療、それぞれにかかる固有経費と共通経費に分け、それぞれの収入の割合に応じて按分し、一定の調整率を掛けた額を自由診療収入の経費とすることが認められています

ちなみに、社会保険診療報酬と認められる範囲は、健康保険法や国民健康保険法、国家公務員共済組合法や地方公務員等共済組合法、生活保護法や介護保険法などに基づいた給付や医療のことで、患者の自己負担分に関しても範囲に含まれます

自由診療収入に関しては、自費診療や歯科ドッグ、保険証を持参しない場合の診療などの保険外診療が該当します。

歯ブラシやデンタルフロスなどの販売による売上は社会保険診療報酬でも自由診療収入でもなく、雑収入となるので注意してください。

以上のように、社会保険診療報酬の所得計算の特例は、かなり有利な税制になっています。
ただ、適用対象となるには、年間の社会保険診療報酬が5,000万円以下であることが条件です。
つまり、年末になるまで自院の収入が5,000万円を超えるか超えないかがはっきりわからない場合は、念のために、別の節税対策も用意する必要があります。
また、歯科医院によっては実際の経費のほうが高くなることもありますので、慎重に計算してみることが大切です。


※本記事の記載内容は、2021年6月現在の法令・情報等に基づいています。