足立美術館
2012年1月から所長の大橋より、その時々の話題をお届けするコーナーです。
厳しい経済状況が続き、来るべき時代をどう予測すべきなのか本当に難しい判断を迫られる昨今です。経営者をはじめとする読者の方々に、この難局を乗り切るヒントとなるような話題がお伝えできればと思います。
是非ご一読下さい。
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「足立美術館」を訪れたことのある方はいらっしゃるでしょうか?
私は昨年秋ある旅行で、島根県にあるこの美術館に足を運ぶ機会を得ました。深い趣きのあふれる5万坪にも及ぶ手の行き届いた日本庭園が目の前に広がっており、横山大観のコレクションと、床の間の壁を抜いて額で縁取り、その中のガラス越しに庭園を臨む「生の掛軸」が名物です。 一杯飲みながらのバスの旅程の途中でしたので、ほんの軽い気持ちで美術館に入ったのですが、これがまた素晴らしい。アメリカの日本庭園専門誌において「細部にまで維持管理がされた造園の大傑作」と賛辞され、あの桂離宮を抑え“日本一”の称号を得ています。私ももともと絵は好きなほうなのですが、その近代日本画のコレクションは素晴らしく、横山大観をはじめとした展示物は目を見張るものばかりで、個人的にはここで一日見ていたいという感じでしたが、旅行の最中のためそんなことは許されず…次回はと考えても、島根ですからはいすぐにと足を運べる距離ではないのが残念でした。
館内にあるこの足立美術館の創設者の「足立全康」氏の略年譜をふと見ていたところ、「明治32年生まれ…小作農家に生まれワラジを履いてあぜ道を小学校に通う」とあり、貧しい農家に生まれ一代でこの財産を築いたのかとますます興味津々になり、売店で「庭園日本一 足立美術館をつくった男 足立全康」という本を買ってきました。
やってみなければ分からんと、いきなり走り出し、あとから善後策を講じるタイプの人間で、車引き、米の仲買、繊維の卸業、不動産業など…足立氏が人生で手掛けた職種はざっと30にのぼり、その約2割が成功をしたといいます。人の何倍も働きお金を手にしますが、事業拡大に挑戦しては失敗をしそのお金を失い、また努力の末にお金を手にしますが、今度は人に騙され家屋敷を手放し、と三歩進んで二歩下がるといった具合で、読む最中、おいおい本当に美術館を造るまで話がいくのかと思うほどの波乱万丈ぶりで、商売の難しさが伝わってきます。比べるのも恐れ多いのですが、とてもではないが私には足立氏のような勇気は湧いてきません、というより頭で考えていてはダメなのでしょう。ただ挑戦、失敗の繰り返しのなかで2割の打率の結果が「足立美術館」と考えると、“[あなたの名前]美術館”も決して不可能な夢ではないかもしれません(笑)
そんな足立氏は自身について「生まれながらに頭が悪く金もないのだから、捨てるものが何一つ無く身軽なもの」と言っています。どんな逆境にあってもしばらくのうちに難局を乗り切る足立氏の姿とみて人は“不死身だ”と驚きの声をあげたそうです。ただ本人曰く「その不屈のエネルギー源が“頭の悪さ”にあるといったらどんな顔をするだろうか」と…。その初心を忘れないように落第寸前の当時の成績表をいつも懐中にしまっていたそうで、「持たぬ者の強み」がいい意味で“開き直り”を与え足立氏の人間形成の大きなバネになっていたようです。 明治~昭和時代の話で現代とは背景も全く違いますが、ふと周りを臨めば八方塞りの厳しい昨今です。“持たぬ者”とはいかないまでも足立氏のそんな“開き直り”のエネルギーを真似たいものです。
『夢をいつも抱いとらんと、バカになるよ』著者の口癖です。現状に満足又はあきらめたその時点から老いや衰退ははじまる。生きていくうえにおいて、“ああしたい、こうしたい”という願望、情熱を抱くことが人間の本性であり、何ものにもまさる活力源になると。思考というのは難しいもので、私などついつい、“ああしなければ、こうしなければ”と考えてしまいがちです。『開き直って、ああしたい、こうしたいと夢を抱き』前進していこうという勇気を与えられた本でした。
写真は足立美術館の庭園の「生の額絵」です。よく見ると…。