契約後でも解除可能? 消費者を守るクーリング・オフ制度
「訪問販売で高額な商品を契約してしまったが、冷静になって考え直したい」「電話勧誘で思わず契約したエステを取りやめたい」といった経験をした方もいるのではないでしょうか。
一定期間内であれば契約を撤回・解除できる「クーリング・オフ制度」は、そういった場合に利用でき、消費者を守る重要な仕組みです。
しかし、すべての契約に適用されるわけではなく、対象となる取引形態や手続方法、期限などにも細かな規定があります。
今回は、クーリング・オフ制度の基本的な仕組みから対象範囲、実際の手続方法、適用されないケースまで解説します。
クーリング・オフ制度の基本的な仕組みとは
クーリング・オフとは、一定の期間内であれば、無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約を解除したりできる消費者保護制度です。
主に「特定商取引法」や「割賦販売法」「保険業法」などの法律に基づいて設けられており、消費者が冷静に判断する時間を確保することを目的としています。
この制度が設けられた背景には、消費者の冷静な判断を妨げる「不意打ち性」や「強引な勧誘」から消費者を守るという考えがあります。
訪問販売や電話勧誘販売では、消費者が十分に検討する時間もなく契約を迫られることが多く、後になって「本当は必要なかった」「他社と比較すべきだった」と後悔するケースが少なくありません。
クーリング・オフ制度の対象となる主な取引形態には以下があります。
まず、自宅や職場などに販売員が訪問して行う販売や、公園や路上でのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどの訪問販売です。
たとえば、突然自宅を訪問してきた業者から高額な浄水器や布団を購入したといった場合でも、8日以内であればクーリング・オフが可能です。
また、電話で勧誘を受けて契約した健康食品やエステティックサービスなどの電話勧誘販売も該当し、この場合も8日以内であればクーリング・オフが可能です。
最近では、高齢者を狙った健康食品の電話勧誘による被害が増加しています。
マルチ商法(連鎖販売取引)や内職商法(業務提供誘引販売取引)も該当し、これらは、より長い20日以内のクーリング・オフが認められています。
なぜなら、こうした取引形態はより複雑で、消費者が契約内容を理解するのに時間がかかるためです。
そのほかにも、エステティックサービスや語学教室、家庭教師派遣などの特定継続的役務提供(一定期間にわたり継続的にサービスを受ける契約で5万円を超えるもの)も8日以内の期間が設定されています。
クーリング・オフの手続方法は比較的簡単です。
はがきなどの書面またはメールなどの電磁的記録で業者に通知するだけで、期間内であれば理由を問わず解除が可能になります。
ただし、重要なのは期間の起算点です。
クーリング・オフ期間は、契約書面などを受領した日から計算されます。
口頭で契約が成立したといわれても、法定の書面(契約書など)を受け取っていなければ、クーリング・オフ期間は開始されません。
クーリング・オフが適用される/されない例
クーリング・オフが適用されるケースの具体例を見てみましょう。
訪問販売で高額な健康食品を契約したが、後から家族に相談したところ不要と判断したケースでは、8日以内であればクーリング・オフが可能です。
また、電話勧誘でエステ契約をしてしまったが、冷静に考えて経済的負担が大きすぎると感じた場合も、同様に8日以内であれば契約を取り消すことができます。
しかし、クーリング・オフ制度が適用されないケースには注意が必要です。
最も注意すべきは、通信販売(インターネットや新聞広告経由など)は原則として対象外という点です。
消費者がみずから情報を調べて契約するため、十分に検討する時間があったと判断されるからです。
返品の可否について、特定商取引法では「返品に関する特約」の表示が必要とされており、特約がある場合には、特約に従うことになります。
特約がない場合は、商品到着後8日以内であれば返品可能とするルールもあります。
また、自発的に店舗で契約した場合(来店契約)も対象外です。
消費者がみずからの意思で店舗を訪れて契約した場合、こちらも十分な検討時間があったとみなされます。
そのほか、すでにサービスを全部受け終わっている場合や、商品を全部消費してしまった場合も、原則としてクーリング・オフはできません。
3,000円未満の現金取引、化粧品や健康食品などの指定消耗品を使用した場合の使用済分、営業や事業のための契約などもクーリング・オフはできないとされています。
クーリング・オフを利用する際の重要なポイントがいくつかあります。
まず、期限内に記録の残る形で通知することが重要です。
口頭での通知は証拠が残らないため、後でトラブルになる可能性があります。
最も確実なのは内容証明郵便で通知することです。
通知する際は、契約年月日、商品名、契約金額、販売会社名などを明記し、「クーリング・オフをします」と明確に意思表示することが大切です。
通知したことを証明するため、書面のコピーを保管しておきましょう。
また、先にも記載したように契約書面などの受領日からの起算となる点にも注意してください。
クーリング・オフ制度は、消費者にとって強力な「最後の防波堤」となる重要な制度です。
しかし、万能ではなく「対象とならない取引」も多く存在します。
契約前に十分に検討し、不安がある場合はすぐに契約書の内容を確認することが大切です。
必要であれば、消費生活センターや専門家への相談をおすすめします。
クーリング・オフ制度を正しく理解し、適切に活用することで、消費者被害を防ぐことができるでしょう。
※本記事の記載内容は、2025年10月現在の法令・情報等に基づいています。