FRONTIER PARTNER GROUP

『固定残業制度』を導入して適正に運用するには

25.10.07
ビジネス【労働法】
dummy

「固定残業制度」は、多くの企業で導入されている賃金制度の一つで、あらかじめ給与のなかに一定の時間外労働に対する手当を含めるというものです。
固定残業制度は、運用を誤ると労働法違反に抵触する可能性がありますが、適切に運用すれば、労使の双方にメリットのある制度です。
特に、企業にとっては業務の効率化や従業員のモチベーション向上につながり、働き方改革を推進するうえでの一つの有効な手段となるでしょう。
労働法に違反せず、正しく固定残業制度を導入する際のポイントについて解説します。

dummy

固定残業制度のメリットとデメリット

2025年2月に、教員の処遇改善を目的とした法改正が行われ、教員に一律で支給されている「教職調整額」が、現在の月給の4%から段階的に引き上げられ、6年後の2031年には10%にすることが決まりました。
公立学校の教員は、業務が広範囲にわたることから、いわゆる「固定残業制度」に近いかたちが導入されており、教職調整額とは時間外勤務手当の代替として支給されている給与の上乗せ分のことを指します。

固定残業制度は、教員のほかにも、さまざまな職種や企業で採用されている制度です。
給与の一部として、一定時間分の時間外労働、休日労働、深夜労働などに対する割増賃金を「固定残業代」としてあらかじめ支払うという制度で、従業員は残業をしなくても固定で手当を受け取ることができ、企業側は毎月の給与計算の手間を軽減できるというメリットがあります。
また、時間内に仕事を終えれば終えるほど、従業員の時給単価が高くなるため、業務効率の改善につながることも大きな利点といえるでしょう。

一方で、固定残業制度にはデメリットも存在します。
制度の運用方法を誤ると、従業員の労働時間管理がおろそかになり、結果として長時間労働を助長してしまうリスクがあります。
こうしたリスクは「給与に残業代が含まれているのだから、残業をさせなければいけない」といった企業側の認識不足や、従業員側の「給与に含まれているので、いくら残業しても残業代は支払われない」といった誤解によって、サービス残業が常態化してしまうケースもあります。
固定残業制度では、あらかじめ定められた時間を超えた場合、追加で残業代を支給しなければいけないことを労使の双方が理解しておきましょう。

また、従業員の残業時間が規定に届かなくても、固定で残業代を支払うことになるため、運用の仕方によっては人件費が増加してしまう可能性もあります。

労働法違反になってしまうケースとは

固定残業制度は、その内容があいまいになりがちなため、違法と判断されるケースが少なくありません。
たとえば、給与明細で固定残業代が基本給に含められ、どの部分が固定残業代なのかがわからない状態は違法となります。
固定残業代はどの時間分なのか、いくら支払われているのか、実際の残業時間がどのくらいの時間だったのかを明確にする必要があります。

もちろん、基本給と固定残業代を合算した給与額が、最低賃金を下回っている場合や、固定残業代部分の単価が法定の割増率を下回っている場合なども違法です。
最低賃金に関しては、原則として、固定残業代を除く基本給だけで定められた最低賃金額に達している必要があります。

また、前述した通り、固定残業代として設定した時間を超えて従業員が残業した場合、その超過分については追加で残業代を支払わなければなりません。
この超過分の支払いを怠ると、労働基準法違反となります。

これらを遵守しなければ、制度が無効とみなされ、過去にさかのぼって未払い残業代の支払いを命じられることがあります。
制度の導入を検討する際は、これらの法的要件を十分に理解し、透明性の高い運用を心がけることが重要です。

固定残業制度を導入する際のポイント

企業が固定残業制度を導入するためには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。
まず、最も重要なのは、制度の内容を就業規則に明記することです。
具体的には、固定残業代の算定根拠となる時間数、金額、そして超過した分の残業代の計算方法や支払い方法について、誰が見ても明確に理解できるように記載する必要があります。
この際、なぜこの制度を導入するのか、どういった目的で運用していくのか、といった会社の姿勢もあわせて示すことで、従業員からの理解を得やすくなります。

次に、労働契約書や雇用契約書にも固定残業制度の内容を反映させます。
就業規則に加えて、個々の労働契約書にも固定残業代の項目を設け、従業員一人ひとりが制度の内容を理解し、同意してもらうようにします。

新しい制度の導入は、従業員に不安を与える場合があります。
なぜこの制度を導入するのか、従業員にとってどのようなメリットがあるのか、疑問や不安を解消するための対話の場を設けることも有効です。

これまで通り、労働時間の管理を徹底することも忘れてはいけません。
固定残業制度を導入したからといって、労働時間の把握義務がなくなるわけではありません。
むしろ、固定残業時間を超えないよう、これまで以上に厳密な労働時間管理が求められます。

固定残業制度は、適切に運用すれば、企業と従業員の双方にメリットをもたらす有効な賃金制度ですが、その運用には法的要件や注意点があります。
導入を考えているのであれば、労務の専門家などと十分に相談し、自社の実情に合ったかたちで導入を進めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年10月現在の法令・情報等に基づいています。