事業展開を加速させるリスキリングに対する助成制度
近年、急速な技術革新や市場環境の変化により、企業は柔軟な事業展開と人材戦略の見直しを迫られています。
特に中小企業においては、限られた資源のなかで新規事業への挑戦やデジタル化対応が求められる一方、人材育成にかかるコストや時間が大きな障壁となっています。
こうした課題を解決するため、厚生労働省は「人材開発支援助成金」の一環として「事業展開等リスキリング支援コース」を設け、企業の成長と従業員のスキル向上を両立して支援する制度を提供しています。
事業展開等リスキリング支援コース
「事業展開等リスキリング支援コース」は、企業が新たな分野への進出や既存事業の変革に伴い、従業員にその職務に関連した必要な知識・技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。
この制度は、企業の競争力強化と従業員の雇用安定を目的とし、国が推進するリスキリング施策の一環として位置づけられています。
【支給対象事業主】
対象となる事業主の主な条件は以下のとおりです。
・雇用保険適用事業所
・職業能力開発推進者を選任していること
・従業員に職業訓練等を受けさせる期間中も、当該従業員に対して賃金を適正に支払っていること
・事業展開等実施計画を作成する事業主であること など
【支給対象労働者】
以下の条件を満たす労働者が対象です。
・助成金を受けようとする事業主の事業所において、被保険者であり、訓練実施期間中において、被保険者であること
・職業訓練実施計画届時に提出した「対象労働者一覧」に記載のある被保険者であること
・下記の(1)~(3)のいずれかに該当すること
(1)《通学制又は同時双方向型の通信訓練の場合》
訓練等の受講時間数が、実訓練時間数の8割以上であること
(2)《eラーニングによる訓練等及び通信制による訓練等の場合》
訓練実施期間中に訓練等を修了していること
(3)《定額制サービスによる訓練の場合》
定額制サービスに含まれる教育訓練(職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練)を修了した者であり、その修了した訓練の合計時間数が1時間以上の者であること
【支給要件(対象となる訓練等)】
(1)職務関連訓練であること
職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練(職務関連訓練)であることが必要ですので、その訓練を受ける労働者の職務により対象となるかどうかが変わります。
(2)訓練時間数が10時間以上であること
対象となる訓練は、訓練時間数が10時間以上であることが必要です。
訓練の実施方法により、訓練時間数の定義が異なります。
通学制・同時双方向型の通信訓練の場合、計画届の提出日時点及び支給申請書の提出日時点における実訓練時間数により、eラーニング・通信制の場合、標準学習時間(標準学習期間)により判断します。
(3)計画に沿って訓練を実施すること
対象となる訓練は、職業訓練実施計画届に基づき行われる訓練であることが必要です。
(4)事業内訓練(講師要件)
事業内訓練の場合、訓練を行う講師に対する支給要件(OFF-JT講師要件)があり、講師は、部内講師と部外講師により、それぞれ支給要件が異なります。
(5)事業外訓練(教育訓練機関要件)
事業外訓練の場合、教育訓練機関の支給要件があります。
教育訓練機関とは、「特定の訓練機関」と「民間の教育訓練機関」をいい、それぞれ支給要件が異なります。
(6)訓練の実施方法
OFF-JTについては、通学制、同時双方向型の通信訓練、eラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練のいずれかにより実施される必要があります。
【対象となる経費等】
対象となる訓練等の訓練に要した経費・訓練時間から、支給対象となる経費・賃金の確認を行います。
(1)対象となる賃金
訓練期間中の所定労働時間内の賃金について、賃金助成の対象となります
(2)対象となる経費
対象となる経費は、支給申請までに申請事業主がすべて負担していることが必要です
(3)事業内訓練における対象となる経費
・部外講師への謝金・手当
・部外講師の旅費
・施設・設備の借上費 など
(4)事業外訓練における対象となる経費
受講に際して必要となる入学料・受講料・教科書代など
(5)その他対象となる経費
・消費税
・キャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティングに要した経費 など
【支給額】
《助成額・助成率》
経費助成:75%(60%)
賃金助成(1人1時間当たり):1,000円(500円)
※括弧内は中小企業以外の助成額・助成率
《支給限度額》
(1)経費助成限度額(1人1訓練当たり)
定額制サービスによる訓練以外の場合、1人1訓練当たりのOFF-JTにかかる経費助成の限度額は実訓練時間数に応じて以下のとおりです。
定額制サービスによる訓練の場合は、1人1月当たり2万円です。
10時間以上100時間未満:30万円(20万円)
100時間以上200時間未満:40万円(25万円)
200時間以上:50万円(30万円)
※括弧内は中小企業以外の事業主
(2)賃金助成限度額(1人1訓練当たり)
1,200時間が限度時間となります。
ただし、専門実践教育訓練については1,600時間が限度時間となります。
(3)支給に関する制限
訓練等受講回数の上限は、同一労働者につき1年度で3回までです。
1事業所が1年度に受給できる助成額の上限は1億円です。
【終わりに】
新規事業に必要なスキルを従業員が習得することで、業務の効率化や競争力が強化されることで事業展開がスムーズに進むことが期待できます。
また、従業員へ成長の機会を提供することにより、モチベーションや満足度が向上し、人材の定着率の向上にもつながると考えます。
本助成金の要件と上限を正しく押さえ、事業計画と訓練計画を連動させることで、投資対効果を最大化していきましょう。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
※本記事の記載内容は、2025年9月30日現在の法令・情報等に基づいています。