テントゥーワン税理士法人

オーバーツーリズム対策にも?『二層価格』を導入する是非

25.09.30
業種別【飲食業】
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訪日外国人の増加によるインバウンド需要の高まりは、飲食店にとって大きなチャンスでありながら、「オーバーツーリズム」という問題も生み出しています。
一部の人気店では、外国人観光客による長蛇の列が近隣住民の迷惑になる、慣れない言語での接客にスタッフが疲弊するといった問題が顕在化しています。
こうしたオーバーツーリズムの解決を図るために、日本人客と外国人客で価格設定を変える「二層価格」を導入する飲食店もあります。
外国人観光客が多いエリアの飲食店に向けて、二層価格を導入する是非を考えます。

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売上アップと対応コストの補填につながる

円安などの影響から、日本を訪れる外国人観光客は増加し続けており、2025年上半期は約2,151万人で、過去最速で年2,000万人に到達しました。
そんな日本を訪れる多くの外国人観光客が高い関心を寄せているのが「食」です。
2019年に公表された観光庁の訪日外国人消費動向調査では、「訪日前に期待していたことは?」という質問に、69.7%の外国人観光客が「日本食を食べること」と回答しました。

特に繁華街や観光地にある飲食店は、食に興味のある外国人観光客の増加というメリットを享受する一方で、オーバーツーリズムによる悪影響も受けています。

オーバーツーリズムとは、特定のエリアに観光客が集中することで、地域住民の生活や自然環境、景観などに悪影響が及ぶ状態のことを指し、日本語では「観光公害」と訳されます。
飲食店においては、たとえば外国人観光客が増えることで、地元の人が普段使いできなくなったり、常連客が入りにくくなったりするという問題が出てきます。
行列による歩道の占拠やゴミの増加、深夜の騒音といった近隣への影響も深刻です。
メニューや接客など、外国人観光客の対応に追われることによる現場の混乱や、食習慣の違いによるトラブルなども無視できません。

こうした問題を解決するヒントになるのが「二層価格」です。
飲食店における二層価格とは、外国人観光客向けのメニュー料金を日本人向けよりも高く設定することを意味します。

日本では、オーバーツーリズム対策として、この二層価格を導入する飲食店が増えています。
価格を調整することで、外国人観光客の来店数を適度にコントロールし、オーバーツーリズムによる混雑を緩和する効果が期待できます。
これにより、日本人のお客が「混雑しすぎて入れない」と感じるのを防ぎ、既存の顧客満足度を維持することにもつながります。

また、外国人観光客は円安の恩恵を受けているため、少々価格が高くなっても抵抗なく受け入れる傾向にあり、設定する価格によっては売上アップを図ることも可能です。
利益を増やすことができれば、その分を外国人観光客に対応するための人件費や設備費に回すことができます。

不公平感によりクレームにつながる可能性も

お客の満足度向上と利益を増やす手段となる二層価格ですが、メリットがある一方で、デメリットも考えられます。
最も懸念されるのが、外国人観光客から「差別だ」と受け取られ、不満やクレームにつながるリスクです。
SNSが発達した現代では、一度不満が拡散されると、瞬く間に悪評が広まり、店の評判を大きく損なう可能性があります。
また、日本人のお客も、外国人観光客と異なる価格設定があることを知った場合、「なぜ外国人だけが高いのか」と疑問を感じたり、店に対する信頼を失ったりするかもしれません。

こうした不公平感を払拭するためには、上乗せされた料金が何に使われるのかを明確にすることが大切です。
たとえば、「海外からのお客様にも安心してご利用いただけるよう、多言語対応スタッフを配置し、快適なサービスを提供するために二層価格を導入しております」といった説明を添えることで、お客の理解を得やすくなります。

ほかにも、外国人観光客向けに特別なコース料理やセットメニューを提供し、その価格を高く設定するという方法も有効です。
単純に「外国人向けメニュー」として価格を上乗せするだけでは、お客に不信感を与えかねません。
特別感を演出することが、成功するポイントになります。

なにより大切なのは、お客に「なぜ価格が違うのか」という疑問を抱かせないような工夫をすることです。
納得してもらえる仕組みがあれば、クレームや不信感のリスクを最小限に抑えられます。

二層価格の導入は、売上の増加といったメリットがある一方で、顧客からの信頼喪失やブランドイメージの毀損という大きなリスクを伴うことを十分に理解しておく必要があります。
安易な導入は、かえって店の価値を下げてしまうリスクがあります。
導入を決断する前に、お客に与える影響や想定されるリスクを十分にシミュレーションしておきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年10月現在の法令・情報等に基づいています。