多くの企業で導入が進む『ポイント制退職金制度』の運用と算定方法
終身雇用が当たり前ではなくなった今、従来の勤続年数に比例して退職金が増加する制度では、優秀な人材の定着や中途採用者のモチベーションの維持がむずかしいという課題が顕在化しています。
こうした課題を解決するヒントになるのが「ポイント制退職金制度」の導入です。
この制度は、従業員の勤続年数だけでなく、役職、スキル、企業への貢献度などを数値化し、それらの合計ポイントと、あらかじめ設定した単価を掛け合わせて退職金を算定するものです。
企業にとってもメリットの大きい、ポイント制退職金制度について解説します。
ポイント制退職金制度の導入が増える背景
日本企業の多くは、従業員の退職後の生活を支える目的で、退職金制度を設けています。
代表的な退職金制度としては、あらかじめ決められた定額の退職金を支給する「定額退職金制度」や、勤続年数や退職時の基本給をベースに計算する「勤続年数・基本給連動型退職金制度」などがあります。
勤続年数・基本給連動型は、以前から多くの企業で採用されてきた制度ですが、長く勤務すればするほど退職金の額が増していくため、短期で退職する従業員や中途採用者にとっては、自分の貢献度が正当に評価されていないと感じてしまうことがあります。
また、近年は業績不振の企業でも基本給を維持する傾向があるため、結果的に退職金が増加してしまい、企業側の負担増につながるケースも見られます。
このような背景から、新たな退職金制度として、「ポイント制退職金制度」の導入を検討する企業が増えています。
ポイント制退職金制度とは、従業員ごとに毎年付与されるポイントを積み重ねていき、その合計ポイントに「ポイント単価」を乗じて退職金額を算出する制度のことです。
付与するポイントは、勤続年数、役職、資格、スキル、企業業績への貢献度といった、さまざまな項目を複合的に評価して決められます。
ポイント制退職金制度のメリットとデメリット
ポイント制退職金制度の最大の特徴は、企業が定める評価項目によって、従業員の貢献度をダイレクトに退職金に反映させることができる点です。
企業が求める人材像や、経営戦略に基づいたポイント設定が可能で、従業員に「どのような行動が評価されるのか」という明確なメッセージを伝えることができます。
勤続年数だけでなく、個人のスキルや貢献度などを含めた公平な評価が可能なため、従業員は自身の働きが正当に評価されているという納得感が得やすくなります。
特に中途採用者や若手社員にとって、早期から貢献度に応じた退職金が見込めるため、モチベーションの向上につながりやすい制度といえます。
また、職能や貢献度をポイント化することで、退職金の将来的な支払い額を予測しやすくなるのもメリットの一つです。
勤続年数・基本給連動型のように、基本給の上昇が退職金に直接影響することがないため、人件費の計画的な管理が可能になります。
一方で、デメリットもあります。
評価項目やポイント付与の基準を細かく設定する必要があるため、制度の設計に手間と時間がかかる可能性があります。
また、従業員に公平であると納得してもらうためには、評価基準を明確にし、その内容を丁寧に説明する必要があります。
さらに、ポイントの付与基準を安易に設定してしまうと、貢献度の高い社員に対する退職金が想定以上に増え、人件費の増加につながるかもしれません。
こうしたリスクを避けるためにも、制度導入時には、シミュレーションを綿密に行うことが大切です。
この制度における具体的な退職金の計算方法
ポイント制退職金制度における退職金の額は、どのように計算すればよいのでしょうか。
この制度の計算方法には、いくつか種類がありますが、一番シンプルなのは、「退職時の累積ポイント×ポイント単価」といったように、累積ポイントとあらかじめ設定した単価を掛け合わせて計算するやり方です。
より計算しやすいよう、ポイント単価は「1万円」のようなわかりやすい金額にすることが多いです。
累積ポイントは、勤続1年ごとに〇ポイント、役職に応じて〇ポイント、企業業績への貢献度を評価して〇ポイントといったように、項目ごとに設定します。 これらの合計が、1年間の「年間付与ポイント」となります。
従業員の累積ポイントは、この年間付与ポイントを勤続年数分合計することで算出します。
そして、退職時の累積ポイントとポイント単価を掛け合わせて算出した金額に、「定年」「会社都合」「自己都合」といった「退職事由別係数」を掛け合わせたものが退職金の額になります。
ちなみに、定年などの場合は退職事由別係数を1.0に設定し、自己都合の場合は勤続年数に応じた退職事由別係数を設定するのが一般的です。
制度を導入することで、社員のモチベーション向上や優秀な人材の定着につながりますが、その設計には、企業の経営戦略や財務状況を踏まえながら、評価項目やポイント数を慎重に決める必要があります。
税務上の取り扱いや社会保険料への影響も考慮し、専門家と相談しながら、導入を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2025年9月現在の法令・情報等に基づいています。