田近淳司法書士事務所

「保険が効かない!?」火災・盗難保険で気をつけたい落とし穴

25.06.10
ビジネス【法律豆知識】
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火災保険や盗難保険に加入していればトラブルが起きても安心と思いがちですが、実際には「保険金が支払われない」ケースが少なからず存在します。
隣家からのもらい火による被害、カギの締め忘れによる盗難など、「まさか」と思う場面で保険適用外となることもあり得ます。
万が一の時に「保険に入っていたのに……」と後悔しないためにも、保険契約内容を見直すことが重要です。
今回は、保険が効かない典型的なケースと対策方法を解説します。

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隣の火事で保険適用外? もらい火の落とし穴

「自分の家は火災保険に入っているから安心」と思っていても、火災の種類や原因によっては保険金が十分に支払われないケースがあります。
特に注意したいのが「もらい火」のケースです。
もらい火とは、隣家など他人の住宅で発生した火災が自宅に燃え移ってしまうことを指します。
たとえば、隣家から出火した火事で自宅が全焼したケースでは、火災保険で建物や家財の損害は補償されますが、修復などに必要とする金額が全部支払われるとは限りません。
そこで、不足分を火元である隣家へ賠償請求しようとしても、請求できない場合があります。

ここで問題となるのが「火元の住民に対する損害賠償請求」です。
一般的な損害賠償の規定である民法第709条によれば、故意または過失(軽い不注意も含む)のある者に責任が認められています。
しかし、隣家からの火災の場合には「失火ノ責任二関スル法律」(失火責任法)という特別法が定められており、それによると、火元となった住民に「故意または重大な過失(故意に等しいような重大な不注意)」がなければ、損害賠償責任を問えないことにされています。
実際の裁判例では、隣家の住民がたばこの不始末で火災を起こし、周辺の住宅にも延焼したケースで、たばこの火の不始末は「重大な過失」にあたらないとして損害賠償請求が認められなかった例もあります。
また、コンロの消し忘れや電気製品の誤使用なども、状況によっては「重大な過失」と認められないことがあります。

さらに、仮に損害賠償請求が認められても、火元となった住民に十分な資力がなければ、実際に賠償金を受け取ることはむずかしくなります。
しかし、隣家の火災保険に「類焼損害補償特約」が付いていれば、その特約から自宅の被害に対する補償を受けられる可能性があります。
これは、隣家の居住者が火災保険に付加する特約で、隣家からの火災によって周囲の住宅や家財に延焼した場合に備えて、補償してくれるというものです。
ただし、隣家の人が適切な保険に入っているとは限らないため、自己防衛の観点からは、自分の火災保険に「もらい火特約」を付けることも検討すべきでしょう。
これを組み合わせることで、より手厚い保障が可能になります。

また、火災保険の基本補償についても再確認が必要です。
標準的な火災保険では「火災、落雷、破裂・爆発」が基本補償となっていますが、風災・雪災・水災などは基本補償には含まれず特約となっている場合もあります。
近年の自然災害の増加を考えると、これらの特約の有無も重要なポイントです。

カギの締め忘れは自己責任?

火災保険と同様に、盗難保険においても思わぬ「落とし穴」が存在します。
特に多いのが、カギの締め忘れや管理不備によって盗難被害に遭った場合です。
一般的に、盗難保険は「第三者の不法侵入を伴う盗難」を補償対象としています。
しかし、保険契約者に「重大な過失」があると判断された場合、保険金が支払われないことがあります。

この「重大な過失」の典型例が、カギの締め忘れです。
たとえば、自動車のカギをつけたまま駐車し、車両が盗まれた場合、車両保険に加入していても、保険会社は「重大な過失」があると判断し、保険金支払いを拒否することがあります。
同様に、住宅の玄関ドアや窓の施錠を忘れて外出し、空き巣被害に遭った場合も、「重大な過失」と判断される可能性があります。
特に、長時間の外出や複数の窓・ドアが無施錠だった場合は、保険金支払いが拒否されるリスクが高まります。

また、貴重品の管理不備も問題となります。
車内に現金やブランド品などの貴重品を見えるように放置した場合や、宿泊先のホテルで室内に貴重品を放置して外出し盗難被害に遭った場合なども、保険適用が認められないことがあります。

さらに、盗難保険の補償範囲も確認が必要です。
火災保険に付帯する盗難補償の場合、「建物の損傷を伴う盗難」のみを対象とするものや、補償する物品に制限があるものなど、さまざまなパターンがあります。
特に高額な宝飾品や美術品は、通常の盗難保険の補償限度額では足りない場合が多いため、注意が必要です。

このように、火災や盗難保険に入っていても、「想定外の事態」で保険金が支払われないことは十分にあり得ます。
自分の契約内容をきちんと把握し、必要であれば補償内容の見直しを検討しましょう。
保険の契約時は、値段ばかりに目が行きがちですが、「万が一のときに頼れるか?」を、基準に選ぶことが重要です。


※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。