社会保険労務士法人レイナアラ

副業先で社員が倒れたら誰の責任?『安全配慮義務』の考え方

26.06.23
ビジネス【労働法】
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副業・兼業を認める企業が増え、国も多様なキャリア形成やオープンイノベーションの観点からこれを推進しています。
しかし、副業を認めるにあたり、企業側は「安全配慮義務」について正しく理解しておく必要があります。
もし、副業先での無理がたたり、従業員が過労で倒れたり精神疾患を患ったりした場合、その責任は副業先の企業だけではなく、副業を許可している本業側の企業も負う可能性があります。
副業が当たり前になった時代だからこそ、安全配慮義務の考え方と、企業が取るべき防衛策を確認しておきましょう。

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副業が推進される社会背景と原則

政府が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業は新たな技術の開発や起業、第2の人生の準備として、非常に有効であると位置づけられています。
労働者が勤務時間外をどのように過ごすかは、基本的には個人の自由です。
過去の裁判例を見ても、公務員や特殊な事情がある場合を除き、私生活の時間をどう利用するかは「労働者の裁量に委ねられるべき」とされており、企業は原則として副業を認める方向で検討することが適当であるとされています。

こうした流れを受け、就業規則を改定して副業を「許可制」や「届出制」にする企業が増えています。
しかし、気をつけなければならないのは、副業を行う従業員の労務管理です。

社員の副業における最大のリスクは、労働時間の蓄積による「過重労働」です。
本業でもフルタイムで働き、その後に副業を行う生活が続けば、当然ながら休息時間は削られ、心身への負荷は増大します。
現在、副業・兼業における「労働時間の通算ルール」の見直しも進められていますが、実務上の問題は「もし、社員が副業先で健康を損ねた場合の責任」という点に集約されます。

実は、副業先で社員が精神疾患にかかったり、倒れたりした場合、必ずしも本業側の企業がその責任を免れるとは限りません。
企業は労働契約法第5条に基づき、労働者が生命・身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務を負っています。

ここで重要なのは、本業側の企業が「副業を許可・容認している」ということです。
企業が副業を認めている以上、自社での労働時間以外にも働いている時間があることを当然認識しているとみなされます。
つまり、たとえ副業先での労働実態を詳細に把握していなかったとしても、会社側が「このままでは従業員が健康を害するかもしれない」と予見でき、さらに、それを防ぐための対策を講じることができたと判断される可能性があります。

副業における安全配慮義務のリスクと対策

安全配慮義務に違反したからといって、刑事罰を科されるわけではありませんが、労働者側から民事上の損害賠償を請求される可能性があります。
また、裁判において、本業側の企業が「過重労働の状態を放置・看過した」と認定されれば、企業イメージの失墜はもちろん、経営に大きな打撃を与えることになります。
さらに、こうした問題が公になれば、ほかの従業員のモチベーション低下や採用活動への悪影響も避けられません。

一方で、こうしたリスクを恐れて副業を全面的に禁止することは、かえって優秀な人材の流出を招き、時代の潮流に逆行することになります。
これからの企業に求められるのは、副業を認めつつ、「安全配慮義務」を果たすバランスの取れた仕組みづくりです。

まず大切なのは、副業・兼業の届出を徹底することです。
その際、単に許可を出すだけでなく、具体的な副業の内容や労働時間、頻度などを詳細に申告してもらう仕組みを整えましょう。
副業の仕事内容が自社の業務に支障をきたさないか、あるいは労働者の安全や健康に過度な負担をかけないかを確認しておくことが、安全配慮義務を果たすことにつながります。

また、就業規則を整備しておくことも重要です。
就業規則には、「長時間労働や過重労働によって、本業の労務提供に支障がある場合には、副業・兼業を禁止または制限することができる」という一文を盛り込んでおきましょう。
これにより、明らかに体調を崩している社員や、残業が続くプロジェクトに携わっている社員に対し、根拠を持ってブレーキをかけることが可能になります。

さらに、副業を開始した後も定期的なフォローアップを欠かさないようにしましょう。
定期的な面談や健康診断の結果を通じて、労働者の健康状態に変化がないかを確認します。
もし健康上の懸念が見つかった場合には、副業の制限を促したり、産業医による面談を実施したりするなど、具体的な措置を講じます。
こうした企業側の明確な姿勢が、万一の際のリスクを軽減させることにつながります。


※本記事の記載内容は、2026年6月現在の法令・情報等に基づいています。