法人成りの際に資産の引き継ぎで損しないためのポイント
個人事業主にとっての「法人成り」は、事業のさらなる発展に向けた一歩になります。
しかし、法人成りをする際は、これまで事業で使ってきた資産や設備を新しい法人へ引き継がなくてはいけません。
適切な手続きを踏まなければ、思わぬ税金が発生したり、事業継続に支障を来したりする可能性もあります。
では、個人事業主の資産をどのように法人に引き継げばよいのでしょうか。
資産をスムーズに引き継ぐための具体的な方法や注意点を説明します。
個人事業主が法人成りの際に考えたいこと
「法人成り」とは、個人事業主として行なってきた事業を、新たに設立した株式会社や合同会社などの組織に引き継ぎ、法人として事業活動を行うことを指します。
法人となることで、信用力の向上や資金調達の多様化、事業承継の円滑化など、多くのメリットが期待できます。
一方で、法人の設立にはさまざまな手間がかかります。
特に、個人事業で使用してきた資産や設備の引き継ぎは優先的に取り組む必要がありますし、どのように引き継ぐかは、法人成りの際の重要なプロセスといえるでしょう。
個人事業主と法人組織は『別人格』として扱われるため、法人成りする際には資産を新たに設立した法人へ引き継がなければいけません。
この資産には、事業用の現金、売掛金、棚卸資産といった流動資産だけでなく、建物、車両、機械類、備品などの固定資産、さらには特許権やソフトウエアなどの無形固定資産も含まれます。
法人成りしたことで、事業活動の主体が個人から法人へ変わるため、資産の引き継ぎを行うことで、これらの資産を法人名義にすることができます。
また、個人事業と法人は、税金の計算方法や税率が異なるため、法人成り後も個人名義のまま事業用の資産を使用していると、税務処理が複雑になったり、意図しない課税が発生したりする可能性があります。
適切な資産の引き継ぎを行うことで、税務上の問題を回避し、適正な会計処理を行うことができるようになります。
資産を法人に引き継ぐための4つの方法
資産を法人に引き継ぐには、主に「売買契約」「賃貸借契約」「現物出資」「贈与」といった方法があります。
売買契約は、もっともシンプルな方法で、個人事業主が所有する資産を、新たに設立した法人へ売却するという引き継ぎ方です。
資産の評価額は中古市場を基に算出されるため、適正価格を反映させやすく、個人事業主側では譲渡所得が発生する可能性があるものの、法人では固定資産または売上原価、または経費として処理されます。
ただし、不動産などの場合、引き継ぎの際に登録免許税や不動産取得税などの税金が発生する可能性があるので留意しておきましょう。
賃貸借契約は、個人事業主が所有する資産を、新たに設立した法人へ貸し出す方法です。
この場合、個人事業主は賃料収入を得て、法人は賃料を支払うことになります。
譲渡に伴う税金が発生せず、名義を法人に移転する必要がないというメリットはありますが、長期的に見ると、売買と比較してコストが高くなる可能性があり、法人成り後も個人事業主として所得が発生するため、個人としての確定申告が必要になります。
現物出資は、個人事業主が所有する事業用の資産を、新たに設立する法人に出資するという方法です。
不動産や車などは現金の代わりに現物出資することが可能で、現金の移動を伴わずに資産を法人に移転できるというメリットがあります。
一方で、資産の評価手続きが必要になるなど、手続きが煩雑というデメリットがあります。
また、現物出資ができる資産は限定されています(不動産や債券、設備機器など)。
そして、贈与は個人事業主が所有する資産を、新たに設立した法人へ無償で譲渡する方法です。
売買の代金や賃料の支払いが発生しないという利点はありますが、資産の評価額は時価で計算され、個人事業主には所得税が、法人には受贈益が課せられる可能性があります。
税務上のメリットはほとんどないため、一般的に選ばれることはほとんどありません。
これらの方法によって資産を法人へ引き継ぐわけですが、特に建物や土地などの不動産を引き継ぐ場合は、慎重な判断が必要です。
売買契約や現物出資で不動産を引き継ぐ場合、所有権移転登記が必要になりますし、前述した通り、各種税金が生じる可能性があります。
賃貸借契約であれば税金は発生しませんが、法人側で支払う賃料は、適正な金額である必要があります。
このように、資産によっては引き継ぎの際に税金が生じたり、手続きが複雑になったりするため、法人成りを検討する場合は、事前に確認しておくことをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2025年5月現在の法令・情報等に基づいています。