企業負担が軽減?『副業・兼業の通算ルール』見直しの狙い
近年、働き方の多様化が進み、副業や兼業を選択する人が増えてきました。
企業側も優秀な人材の確保や従業員のスキルアップを目的として、副業・兼業を容認するケースが増加傾向にあります。
しかし、副業・兼業が普及する一方で、本業と副業・兼業の労働時間や割増賃金などを通算して管理する「副業・兼業の通算ルール」が企業側の負担になっている場合もあります。
こうした状況を踏まえ、政府は「副業・兼業の通算ルール」の見直しを検討しています。
議論が進められているなか、見直しの背景や方向性、改正の時期などについて解説します。
副業・兼業を行う人が増えている?
法的な区別はありませんが、一般的に本業以外に収入を得るための仕事を「副業」といい、本業と並行して複数の仕事を持つことは「兼業」といわれています。
近年、本業以外に、この副業・兼業を持つ人が増加しています。
総務省が2022年に行なった約54万世帯を対象にした調査によれば、本業以外の副業を持つ人の数が305万人と、5年前よりも60万人ほど増えていることがわかりました。
本業を持つ人が副業・兼業を行う理由はさまざまですが、物価上昇や将来への不安から、収入を増やしたいと考える人が増えていることが一因としてあります。
また、スキルアップやキャリアの多様化も背景にあり、本業では得られないスキルや経験を積むことで、市場価値を高めたいと考える人も増えています。
さらに、インターネットやスマートフォンの普及により、時間や場所にとらわれない働き方が可能になったことも副業・兼業の増加を後押ししています。
一方、企業側にも、副業・兼業を容認することで、優秀な人材の確保や従業員のモチベーション向上につなげようとする動きが広がっています。
人材の流動化が進むなか、多様な働き方を認めることで、優秀な人材を確保することが可能になりました。
しかし、現行の労働基準法では、複数の企業で働く従業員の労働時間は合算されることになり、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えた場合は企業が割増賃金を支払う、いわゆる「副業・兼業の通算ルール」が存在します。
このルールは、労働者の健康保護を目的としていますが、企業側にとっては、労働時間の管理が複雑になり、さらに法定労働時間を超えた分の割増賃金の支払いが必要になるという問題があります。
大企業のほか、中小企業にとっても、この「副業・兼業の通算ルール」が負担となっている可能性があります。
通算ルールにおける見直しのポイント
労働時間の管理について、企業は従業員の副業・兼業状況を把握して、正確に管理する必要があります。
しかし、副業・兼業状況は従業員の自己申告に頼らざるを得ず、従業員が自主的に副業・兼業を行なっている場合、企業がその状況を把握するのは容易ではありません。
そして、正しく状況を把握できなければ、適正な健康管理も行えません。
また、副業・兼業を行なっている従業員に対しては、割増賃金の計算も複雑です。
複数の企業で働く従業員の労働時間を通算する場合は、該当する従業員の労働時間を本業と副業とで1日ごとに細かく管理しなければならず、労働時間の配分や割増賃金の負担割合などで、他企業との調整が必要となる場合もあります。
このような理由から、副業・兼業の容認について、慎重な姿勢の企業もまだまだ存在します。
そこで、従業員の副業・兼業の機会が制限されないように、厚生労働省の労働政策審議会では、「副業・兼業の通算ルール」の見直しを踏まえた労働基準法改正に向けた議論を進めています。
たとえば、労働時間の通算方法の見直しについては、企業負担を軽減するために、勤怠管理の簡略化などが検討されています。
また、割増賃金の支払いについては、通算での労働時間の管理を廃止し、本業と副業・兼業先での労働時間は別個に管理するという案も浮上しています。
ただし、副業・兼業によって労働時間が過剰になることを防いで、労働者の健康を守るためにも、勤怠管理における労働時間の通算ルールは引き続き採用されると見られています。
通算ルールの見直しによって、企業側が期待できるのは、労働時間の管理にかかる負担の軽減です。
通算方法が簡素化されることはもちろん、割増賃金が通算ではなくなることで、計算や支払いにかかる手間やコストを削減できるでしょう。
こうした通算ルールの見直しは、企業側が副業・兼業を容認しやすくなるということでもあります。
負担が軽減されることで、企業は副業・兼業を積極的に推進しやすくなります。
通算ルールの見直しは、2026年に予定されている労働基準法の改正に向けた議論の一つです。
改正が正式に決まれば、企業側は副業・兼業に関する就業規則や労働時間の管理体制を見直す必要があるかもしれません。
今後の動向を注視しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2025年5月現在の法令・情報等に基づいています。