社会保険労務士法人レイナアラ

従業員に『労働条件通知書』を交付しないことのリスク

25.03.25
ビジネス【労働法】
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「労働条件通知書」は、使用者と労働者が労働条件をお互いに合意するために必要な書類です。
使用者は労働基準法と労働基準法施行規則によって、この労働条件通知書を作成して労働者に交付するように定められています。
もし、使用者の義務である労働条件通知書の交付を怠った場合は、労働基準法違反になるのはもちろん、そのほかにも、さまざまなペナルティやデメリットが発生する場合があります。
使用者は労働条件通知書を交付しないことのリスクについて、しっかりと把握しておきましょう。

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刑事罰や行政処分を受ける可能性がある

「労働条件通知書」とは、会社が従業員に対して、労働条件を明示するために交付する書類で、賃金、労働時間、休日、休暇、退職に関する事項など、労働条件に関する重要な情報が記載されています。
なお、2024年4月1日には「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されるなど、労働条件の明示事項が一部改正されたので、その内容を確認しておきましょう。

労働条件が記載された労働条件通知書は、従業員が安心して働くためのベースとなるだけでなく、会社にとっても労務管理を円滑に行ううえで不可欠なものです。
原則として、会社は正社員だけではなく、契約社員やパート社員、アルバイトなども含む、すべての従業員に労働条件通知書を交付しなければいけません。

使用者は労働基準法第15条によって、労働者への労働条件通知書の交付が義務づけられており、違反した場合には労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
さらに、刑事罰だけではなく、行政処分を受けることもあります。
労働者からの通報や定期調査などで労働条件通知書の不交付が発覚した場合、労働基準監督署による是正勧告や行政指導などを受けるかもしれません。
この勧告や指導に従わない場合は、監査などのさらに重い処分を受けることになります。

刑事罰や行政処分を受けることで、労働条件通知書を交付していないことが世間に周知されてしまう可能性もあります。
2024年10月には、東京都内の大学が准教授と労働契約を結ぶ際に労働条件通知書を交付していないことが発覚し、管轄の労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがニュースとして報じられました。

労働条件通知書の不交付は、労働者や求職者の信頼を失い、採用活動にも悪影響を及ぼします。
また、口コミサイトやSNSなどで悪評が広がると、会社の信用低下にもつながります。

通知書の不交付は労使トラブルの元になる

労働条件通知書の不交付は、労使トラブルの火種にもなります。
書面で労働条件を明示しておかないと、労使間で労働時間・賃金・業務内容などの認識にずれが生じやすくなります。

労働時間や賃金の条件が不明確なままだと、労働者が「契約と違う」と主張し、未払い賃金や残業代などを請求されるかもしれません。
過去には、労働条件通知書の不交付が原因で、未払い残業代を巡る裁判が起きたこともありました。
労働条件通知書を交付しないままだと、未払い賃金や残業代などを請求された際に、証拠がないため、使用者側が不利になりやすい傾向にあります。
また、トラブルから発展して、労働者による労働基準監督署への申告につながる可能性もあります。
労使トラブルを防ぐためにも、労働条件通知書は必ず労働者の就業時に交付しておかなければいけません。

労働条件通知書を交付する際は、必須記載事項を漏れなく記載し、書面で通知する必要があり、口頭での通知は認められていません。
ただし、労働者が希望すれば電子メールやPDFなどの電子データでも交付することが可能です。
電子データでの交付は、労働者が内容を確認し、保存できる形式であることが重要です。

また、無用な労使トラブルを防ぐためにも、交付したことがわかる証拠は残しておくようにしましょう。
書面を手渡しした場合には、受領サインをもらい、電子データで通知した場合はメールやクラウドで送信し、開封確認を取るようにしましょう。
同時に、労働者本人にコピーを渡し、会社でも原本を保管しておくことをおすすめします。

さらに、労働条件通知書には「残業なし」と書いてあるのに実際は残業があるなど、労働条件通知書と実態の不一致は、労使トラブルの元になります。
通知書の内容と実態を一致させることも大切です。

労働条件通知書は、会社と従業員のどちらにとっても重要な書類です。
実態と異なる部分がないか、労働条件通知書の内容を見直したうえで、交付方法についても理解しておきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年3月現在の法令・情報等に基づいています。