正込法律事務所

不動産の名義人の死亡情報を登記簿に表示する新制度とは

25.05.06
業種別【不動産業(登記)】
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不動産登記において、所有権登記名義人が死亡した場合に、その情報を登記簿に符号で表示する新しい制度が新設されました。
この新制度は「所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示制度」といい、2026年4月1日から施行される予定です。
施行後は、登記簿を見るだけで名義人の死亡情報を確認できるようになるため、所有者不明土地問題の解消や相続登記の促進などが期待されています。
不動産を相続する予定があれば知っておきたい、新制度の中身について解説します。

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相続登記の義務化に伴う新しい制度が創設

ここ数年、全国的に所有者不明土地が急増しており、深刻な社会問題となっていました。
この問題の大きな要因の一つが、相続登記の放置です。
相続登記とは不動産の所有者が亡くなった際に、その名義を相続人に変更する手続きのことです。
相続登記が長年放置されると、所有者が誰かわからない、いわゆる「所有者不明土地」が増加します。

政府は、増え続ける所有者不明土地問題の解決に向けて法改正を行い、2024年4月1日からは相続登記の申請が義務化されました。
義務化以降、相続登記の申請は、相続人が不動産を相続したことを知った日から3年以内に行わなければならず、もし正当な理由なくこの義務を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

そして、この所有者不明土地問題の解決に向けて、新たに導入されるのが「所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示制度(符号表示制度)」です。
符号表示制度は、法務局の登記官が職権により、ほかの公的機関で知り得た名義人の死亡情報を登記簿に符号で記載するという新しい制度です。
これにより相続登記がされていない不動産でも、登記簿を見れば名義人が亡くなっているかどうかを誰でも確認できるようになります。

これまでは、不動産の名義人が亡くなっても、相続人が相続登記をしない限り、名義人が死亡した事実は登記簿に表示されませんでした。
登記簿で名義人の死亡の有無を確認することができないと、所有者の特定ができず、民間事業や公共事業の妨げになったり、防災対策の遅れにつながったりといった問題が生じます。
民間事業や公共事業の計画段階で、所有者の特定ができて、どのくらい交渉に手間やコストがかかるのか前もってわかれば、より円滑に用地や地域の選定を行うことが可能になります。

死亡情報を登記官が取得する流れ

所有権登記名義人の死亡情報は、登記官が「住基ネット」や固定資産課税台帳などから取得する予定です。
住基ネットとは、住民基本台帳ネットワークシステムの略で、氏名、生年月日、性別、住所などが記載された全国市区町村の住民基本台帳をネットワークで結んだシステムのことです。

今回の新制度において、住基ネットについては、所有権の登記名義人の住所などの変更情報を取得する仕組みの中で、死亡情報も取得することが可能であるため、この仕組みを利用する形を想定しています。
住基ネットなどから、死亡情報を取得した登記官は、死亡の有無について、その事実を確認したうえで、登記簿に記載します。
ただし、死亡情報をどのような形で符号にして公示するのかは、まだ公表されていません。
死亡した名義人の氏名に波線や記号を付けると見られていますが、今後の発表で明らかになる予定です。

符号表示制度の新設によって、今後は登記簿を見るだけで名義人の死亡の有無を確認できるため、相続登記の申請が行われていない不動産がすぐにわかるようになります。
一方、注意したいのは、符号表示制度は、あくまで死亡情報を公示するためのものであり、誰が相続人なのか、相続分がどうなるかといった相続関係を確定するものではないということです。
符号表示によって「登記名義人が死亡した」という事実は判明しますが、相続登記の申請については、相続人が別途行う必要があります。

符号表示制度は、相続登記の前提となる情報を整備する役割を果たします。
所有者不明土地の調査や、不動産取引の円滑化にも役立ちますし、空き家の適切な管理や活用も促進されると見られています。

相続登記が義務化された最大の目的でもある所有者不明土地の解消にも役立つ符号表示制度は、2026年4月1日に施行されます。
施行まである程度の期間がありますが、将来的に不動産を相続する予定があれば、符号表示制度についての理解を深めておくことをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2025年5月現在の法令・情報等に基づいています。