税理士法人加藤会計事務所

取引先倒産に備える! 債権回収の基本と予防策を徹底解説

25.12.09
ビジネス【企業法務】
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中小企業や個人事業主にとって、売掛金などの債権が回収できなくなることは、資金繰りに直結する深刻なリスクです。
支払遅延や取引先の倒産といった事態は、いつ誰に起きてもおかしくありません。
実際に未回収が発生した際には、段階的な対応と法的手続の知識が必要となります。
しかし、より重要なのは「未然に防ぐ」という視点です。
契約書の整備や与信管理の徹底など、日頃からの備えがあれば、多くのトラブルを回避できます。
今回は、債権回収の基本的な流れと、未回収リスクを最小限に抑えるための実務的な予防策を解説します。

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債権回収の基本的な流れ

債権回収は、まず任意の請求から始めるのが簡便なため、一般的です。
支払期日を過ぎても入金が確認できない場合には、電話やメールで状況を確認し、支払いを促します。
取引先の担当者が単純に失念している場合や、社内手続の遅れといった理由も少なくありません。
初期段階での丁寧なコミュニケーションによって、関係を悪化させることなく回収できるケースも多いのです。

電話やメールでの督促に応じない場合は、支払期限を明記した請求書をあらためて送付します。
「○月○日までにお支払いください」と具体的な期日を設定し、振込先情報を明記することが有効です。
それでも支払いがない場合には、内容証明郵便を利用した督促状の送付を検討します。
内容証明郵便は、郵便局が差出人・受取人・差出日時・内容を公的に証明する郵便で、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を客観的に証明できます。
この段階で「法的手続も辞さない」という姿勢を示すことができ、心理的なプレッシャーを与える効果があります。

任意の交渉で解決しない場合は、裁判所を通じた法的手続に移行します。
債権額が60万円以下の場合は「少額訴訟」、それ以上の場合は通常訴訟を検討します。
また、「支払督促」という簡易な手続もあります。
これは書類審査のみで債務名義を取得できる制度で、費用も通常訴訟より安く済みます。
ただし、相手が異議を申し立てると通常訴訟に移行します。

判決や仮執行宣言を得られれば、相手の預金口座や不動産、給与などを差し押さえる強制執行に進むことが可能です。
ただし、相手の財産の所在を特定する必要があり、実務上はこの点が大きなハードルとなります。
将来の回収不能を避けるため、判決取得前でも相手の資産を確保する「仮差押え」などの保全手続も検討すべきです。
仮差押えは、債務者が財産を隠したり処分したりするのを防ぐ効果があります。
ただし、仮差押えを行う場合には、裁判所に担保金を供託する必要があり、弁護士への依頼や費用面も含めて慎重な判断が求められます。

ここで重要な注意点があります。
法的手続を進めても、債務者に資産や収入がなければ、実際の回収は困難です。
「勝訴したのに1円も回収できない」という事態も珍しくありません。
そのため、相手先の資金力や信用状況を把握したうえで、どの手段を選択するかを判断することが大切です。

未回収を防ぐための予防策

債権回収において最も効果的なのは、「未回収を発生させない」ことです。
事後対応にかかる時間とコストを考えれば、予防策に注力することの重要性は明らかです。

まず基本となるのが、取引開始時の契約書作成です。
口頭での合意や簡単な発注書・請求書だけで取引を進めるケースも見られますが、これでは後々のトラブルに対応できません。
契約書には、商品やサービスの内容、金額、支払期日、支払方法を明記するとともに、遅延損害金の規定を盛り込むことが欠かせません。
遅延損害金とは、支払いが遅れた場合に課される利息のようなもので、法令の範囲内で利率を設定することが可能です。
具体的な利率の設定は専門家に確認しましょう。
この規定があることで、トラブル発生時に法的根拠を持って請求でき、相手への抑止力としても機能します。

次に重要なのが与信管理の徹底です。
与信管理とは、取引先の財務状況や信用情報を定期的に確認し、適切な取引条件を設定することを指します。
新規取引開始時はもちろん、既存取引先についても定期的に信用調査を行い、経営状況の変化を把握することが大切です。
帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社を利用する方法や、取引先の決算書を入手して分析する方法があります。
与信調査の結果、不安がある場合には、取引額に上限を設ける、支払条件を前金や短期サイトに変更する、担保や保証人を求めるといった対策を講じることが重要です。

日常業務における管理の徹底も欠かせません。
請求書は期日通りに確実に発行し、入金予定日を管理します。
入金があったら即座に確認し、少しでも遅延があれば速やかに連絡を取ることが重要です。
「少しぐらい遅れても大丈夫だろう」という甘い判断が、後々大きなトラブルにつながることもあります。
早期発見・早期対応が、未回収リスクを最小限に抑えるカギとなります。
また、取引基本契約書に「期限の利益喪失条項」を入れておくことも有効です。
これは、1回でも支払いが遅れた場合、残債全額を直ちに請求できるという条項です。
ただし、契約書に「期限の利益喪失条項」を設ける際には、相手が消費者である場合に不当条項と判断されるおそれもあるため、専門家への確認が望ましいでしょう。

債権回収は「事後対応」と「予防策」の両面からのアプローチが必要です。
未回収が発生した際の基本的な手順を理解しておくことはもちろん重要ですが、それ以上に、契約書の整備や与信管理を通じて日頃から備えておくことが、健全な経営を維持するうえで不可欠です。
もし回収が困難だと判断した場合は、債権回収の専門家に早期相談することをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。