Management LABO 経営会計事務所

『PLG(プロダクト レッド グロース)』の基礎知識と成功例

23.04.25
ビジネス【マーケティング】
dummy
従来の営業活動といえば、営業担当者がターゲットとなるユーザーに、自社の製品(プロダクト)やサービスを売り込むのが一般的でした。
しかし、近年は営業やマーケティングの仕組みを製品内に取り込み、ユーザーが製品を使用することによって、さらなる事業の拡大を図るビジネスモデルが注目を集めています。
このビジネスモデルのことを『Product Led Growth(プロダクト レッド グロース)』、略して『PLG』と呼びます。
今回は、コロナ禍で利用者が拡大したZoomの成功例も含めPLGについて解説します。
dummy
人ではなく製品自体がユーザーに売り込むビジネスモデル

これまで日本で主流とされてきたのは、『Sales Led Growth(セールス レッド グロース)』、略して『SLG』と呼ばれるビジネスモデルでした。
これは営業担当(Sales)が導く(Led)成長(Growth)という名の通り、営業担当が主体となり、自社の製品をユーザーに売り込む営業手法です。
一方、『PLG』は、プロダクト(Product/製品や商品)が導く成長という名の通り、ユーザーに製品を使ってもらうことで、追加の営業活動などなしに、課金につながっていくビジネスモデルを指します。

PLGはSaaS型のサービスと相性がよく、現在までに多くのSaaS企業がPLGを導入してきました。
『SaaS(サーズ)』とは、『Software as a Service(ソフトウェア アズ ア サービス)』の略で、従来のようなパソコンなどにインストールして使用するソフトウェアではなく、インストールしなくてもインターネットを経由し継続的に使用できるクラウドサービスのことを指します。

たとえば、Googleが提供しているWebメールのGmailや、クラウドストレージのDropboxは、パソコンやスマホにソフトウェアをインストールすることなく、ブラウザ上で利用できる代表的なSaaS型サービスです。

このSaaS型のサービスに、マーケティングや営業の仕組みを組み込む手法がPLGです。
PLGは、ユーザーが製品を使用することで自動的に営業活動やマーケティング活動が行われるため、SLGのように営業担当者を必要としません。

では、「ユーザーが製品を使用することで自動的に営業活動やマーケティング活動が行われる」とは、どういうことでしょうか。
PLGの成功事例として有名なZoomを参考に見ていきましょう。


ZoomがPLG として成功した理由

Zoomは、アメリカのZoomビデオコミュニケーションズが開発・提供する、SaaS型のWeb会議ツールです。
コロナ禍におけるリモートワーク需要の拡大に伴い、ビジネスパーソンを中心に多くの人に使用されています。
遠距離の相手や複数人とのオンラインミーティングが可能ということもあって、ユーザーは日本でも爆発的に広まりました。

Zoomには40分間利用できる無料版と、時間制限なく利用できる有料版の2種類の利用方法があり、無料版のサービスには40分までしか使用できないという制限が設けられています。
これがPLGとして、Zoomに組み込まれた仕組みの一つです。

一般的に、人が効率よく会議を行える時間は約45分といわれています。
Zoomの無料版はその時間よりもわずかに少ない40分という制限を設け、ユーザーが「会議時間があと少し足りない、もう少し延長したい」と感じる絶妙なタイミングで無料版のサービスが終了することにより、ユーザー自身が自然と有料版への移行を検討するように設計されています。
つまり、製品そのものがユーザーに対して無料版から有料版へのアップデートを推奨するという営業活動を行っているのです。

さらに、オンラインミーティングの主催者に参加者を招待させることも、Zoomの登録者を増やすための工夫の一つです。
Zoomで会議を行う際、招待を受けた参加者は、主催者から送られてきたリンクにアクセスして、会議に参加します。
この時点で、オンラインミーティングに参加するために、自動的にZoomを使用せざるを得ない状況をつくることになります。
会議に参加するだけの場合、Zoomへのアカウント登録などは不要となりますが、多くのユーザーが初回利用でZoomの通話品質の高さや便利さなどを実感するため、継続利用できるようにアカウントを登録することになるというわけです。
このような仕組みを製品に組み込むことで、営業担当者を動かすことなく、Zoomはユーザー数を増やしていきました。

ほかにも、チャットツールのSlackや、クラウドストレージサービスのDropboxなども、無料版と有料版を用意し、ストレージ容量などで差をつけることで、有料版への移行を促すPLGの成功例としてあげられます。

PLGのメリットは、これまでのような営業にかかる工数や時間、さらには人件費も削減できることにあります。
製品そのものが営業活動やマーケティング活動を担うため、営業コストの大幅な圧縮にもつながるでしょう。

ただし、PLGを成功させるためには、製品そのものの価値を高める必要があります。
完成度が高く、顧客が満足できる製品だからこそ、ユーザーは無料版を継続して使い、そこから有料版にアップグレードしてくれるのだといえます。

PLGを導入することで、営業コストは削減できるかもしれませんが、それ以上に製品の開発コストがかかってしまう可能性もあります。
それらのことに留意して、自社の商品やサービスのマーケティングに活用できるかどうかを検討しましょう。


※本記事の記載内容は、2023年4月現在の法令・情報等に基づいています。