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どちらを守るべき? 医師の『守秘義務』と『通報』の考え方

24.07.02
業種別【医業】
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医師には守秘義務が定められており、知り得た患者の情報を正当な理由なく外部に漏らすことが禁止されています。
守秘義務は刑法134条第1項を根拠にしており、もし違反した場合は、6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金に処される可能性があります。
しかし、診察中に患者から覚せい剤や麻薬などの使用反応が出た場合、この守秘義務に反して、警察や行政機関に通報してもいいのでしょうか。
こうした状況になったときに迷わず行動できるよう、守秘義務と通報について、理解を深めましょう。
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覚せい剤と麻薬を使用した患者の通報先

医師が外部に漏らしてはいけないとされているのは、医療行為の過程で知り得た患者の健康状態や病状、診断内容や治療内容などの個人情報です。
当然、これらの情報を漏えいすれば医師は守秘義務違反として罰せられますが、覚せい剤や大麻の中毒患者などについては、警察や行政機関に通報しても守秘義務に反したことにはなりません。

たとえば、検査の結果、患者から覚せい剤の反応が出た場合は、警察に通報することが正当な行為として認められています。
過去の判例では、患者の尿から違法な薬物の成分を検出した医師による警察への通報は、正当な行為であり、医師の守秘義務には反しないという判決もありました。
覚せい剤の使用は覚せい剤取締法違反なので、使用の痕跡があれば、迷わずに警察に通報するべきでしょう。

一方、大麻やコカインなどは麻薬及び向精神薬取締法によって、患者が麻薬中毒者だった場合、医師は都道府県知事に届け出るように、と定められています。
対象になる薬物は、大麻やコカインのほかに、モルヒネ、ヘロイン、MDMA、アヘンなども含まれ、実際の届け出先は都道府県の保健所や薬務課などです。
麻薬及び向精神薬取締法第58条の2では、検査の結果、患者が麻薬中毒者だったときには、速やかに氏名や住所、年齢や性別などの患者の情報を行政に届け出る必要があり、もし届け出なかった場合は罰せられることもあります。
これは、警察への通報とは異なる要件によって発生する義務ですので、注意しましょう。

覚せい剤使用者の警察への通報は義務ではない?

留意したいのは、麻薬に関しては行政に通報する義務がありますが、覚せい剤については警察に通報する義務がなく、通報を定めた法令も存在しないということです。
ただし、公務員としての地位を有する医師の場合、刑事訴訟法第239条第2項の公務員の犯罪告発義務により、覚せい剤についても通報する義務が生じます。
もちろん、違法薬物を見逃すことは倫理的にも社会的にも許されることではなく、原則として通報するべきではありますが、通報しなくても罰せられることはありません。
つまり、医師が覚せい剤の使用者を通報するかどうかは、個人の判断や医院の方針に委ねられているのです。

覚せい剤を使用していた患者は、警察に逮捕された時点で治療の継続がむずかしくなる場合があります。
通報して逮捕するよりも、治療を優先するべきと判断したときには、すぐには通報せず、治療が終わってある程度状態がよくなってから通報するという選択もあります。

明確な答えがあるわけではなく、さまざまなケースが想定されるので、判断がむずかしいところですが、医師の本分は患者を治すことにあります。
そうした場面になった際には、医師の本分に立ち返って、正しい判断をするようにしましょう。

虐待されている児童やDV被害者の通報先

届出の義務があるのは、麻薬だけに限りません。
診察の過程で、虐待を受けている児童やDVの被害者などを発見した場合も、各所に連絡する必要があります。

児童福祉法第25条では、「要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」と定めています。
そのため、児童が虐待を受けていることがわかったら、福祉事務所や児童相談所に通報しなければいけません。

DVの被害者については、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)6条1項に基づき、配偶者からの暴力を受けている人を発見した場合、配偶者暴力相談支援センターか警察官に通報するように努める必要があります。
通報は義務ではありませんが、被害者のさらなる受傷を防ぐためにも、迅速に通報するべきと考えられます。
当然、これらの通報も守秘義務違反にはなりません。

守秘義務は医師にとって絶対的なものではなく、ケースによって通報が優先されることもあるということです。
また、本人の同意と承諾があれば、患者の個人情報を開示しても守秘義務違反にはなりません。
判断がむずかしいケースでは、本人から同意と承諾を取ったうえで通報することで、ある程度リスクを回避できます。

通報が必要かもしれないというケースに遭遇したとき、どういう対応をするのか、どこに通報をするのかなど、日ごろからに意識しておき、いざというときに困らないようにしておきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。