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知っておこう! 介護事業所における高齢者虐待の現状と予防対策

23.08.01
業種別【介護業】
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かねてから問題視されている、介護事業所での高齢者虐待が深刻化しています。
高齢者虐待は暴力行為による身体的虐待だけでなく、暴言や無視などによる心理的虐待、必要な介護サービスを利用させないといった介護や世話の放棄・放任などの行為が含まれます。
高齢者虐待が増え続ける背景には、高齢化社会による介護施設利用者の増加と、慢性的な従業員不足が影響しているといわれています。
今回は、高齢者虐待の要因と、防止するための対策を考えていきましょう。
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高齢者虐待の現状と法による定義

2022年12月に厚生労働省が公表した『令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』によると、高齢者が介護施設の従業員などから虐待を受けたと認定された件数が、令和3年度で739件であり、前年度から144件(24.2%)増加して過去最多であることがわかりました。

また、同じく令和3年度に、市町村が相談・通報を受理したなかで介護職員等による高齢者虐待の相談・通報件数は2,390件あり、前年度より293件(14.0%)増加しています。

虐待が起きた要因として最も多いのは、「教育・知識・介護技術などに関する問題」が全体の56.2%を占めています。次いで「職員のストレスや感情コントロールの問題」が23%、「組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制など」が22%、「倫理観や理念の欠如」が12.7%と続きます(複数回答)。

そして、虐待の事実が認められた739件の事業所のうち、201件(27.2%)が過去に何らかの指導など(虐待以外の事案に関する指導を含む)を受けており、過去にも虐待事例が発生していたケースが146件(19.8%)あることがわかりました。

介護施設や介護事業所の職員による高齢者虐待は、かねてから問題視されています。
2006年には、高齢者の人権・利益を守るため、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、虐待を受けた高齢者の保護のための処置、擁護者の負担軽減を定めた『高齢者虐待防止法(高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)』が施行されました。

高齢者虐待防止法では、高齢者虐待は養護者による家庭内虐待と要介護施設従事者等による施設内虐待の二つに分類されています。
そこでは介護職員等による虐待について、下記のように定義しています。

●身体的虐待
高齢者の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること。
●介護・世話の放棄・放任
高齢者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置、その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
●心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言、または著しく拒絶的な対応、その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
●性的虐待
高齢者にわいせつな行為をすること、または高齢者にわいせつな行為をさせること。
●経済的虐待
高齢者の財産を不当に処分すること、その他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

サインを見逃さないことも重要

介護事業所においては、高齢者虐待の防止に努めなければなりません。
そのためには、高齢者虐待が発生してしまう要因を知り、事業所内全体で虐待を防止する意識を持つことが大切です。

前述のアンケート結果によると高齢者虐待の発生につながった要因として、教育体制の不備、知識の欠如、職員のストレス蓄積、職場のコミュニケーション不足などが多く挙がりました。
つまり、職員に対する適切な教育やストレスケアを実施し、働きやすい環境を整えることで多くの高齢者虐待を防止できる可能性があるのです。
具体的には職場環境の整備として、次のような対策が考えられます。

【事業所における高齢者虐待防止対策の例】
・事業主や施設長などから高齢者虐待防止の意思表示をスタッフに宣言する。
・高齢者虐待対策の研修(採用時および年1回以上)を定期的に実施する。
・高齢者虐待防止についての業務マニュアルを作成する。
・高齢者虐待についてスタッフが相談・報告が出来る体制を整備する。
・高齢者虐待が発覚した場合の市町村への通報体制、再発防止委員会を整備する。
・ICTの活用により介護記録等の管理状況を情報共有し、常に見える化を図る。
・定期的にスタッフとの面談、ストレスチェック等を実施し、経過を記録する。

また、高齢者が不当な扱いや虐待を受けている可能性があることに少しでも早く気づくのも重要です。
東京都医師会が公表した『かかりつけ医機能ハンドブック2009』のなかにある『高齢者虐待防止の取り組み』では、高齢者虐待の傾向として、高齢者に見られる次のようなサインを見落とさないよう呼び掛けています。

身体的虐待を受けている高齢者の身体面、行動面に見られるサインとしては、「説明のつかない転倒や小さな傷が頻繁に見られる」「回復症状がさまざまな段階の傷や痣、骨折などがある」「たやすく怯え、恐ろしがる」などが挙げられます。
介護者による世話の放棄や高齢者本人による自己放任のサインとしては、「寝具や衣服が汚れたままであることが多い」「かなりの程度の潰瘍や褥そうができている」「身体にかなりの異臭がする」などが挙げられます。
心理的虐待を受けている高齢者の身体面、行動面に見られるサインは「指しゃぶり、かみつき、ゆすりなど悪習慣が見られる」「不規則な睡眠(悪夢、眠ることへの恐怖、過度の睡眠など)の訴えがある」などです。
これらは一例なので、詳細は東京都医師会のホームページを参考にするとよいでしょう。

高齢者虐待を防止するために必要なのは、虐待を発生させない環境を構築することです。
その第一歩として、事業所トップによる「高齢者虐待は一切発生させない」という強い意思表示を行うことが何よりも重要です。
介護現場は慢性的な人材不足により、従業員のストレスが溜まりやすい職場といえます。
まずは普段からスタッフ間のコミュニケーションを円滑に保ち、何でも相談できるような雰囲気づくりを心掛けることが、高齢者虐待を防止するための有効な対策といえるでしょう。


※本記事の記載内容は、2023年8月現在の法令・情報等に基づいています。