『口腔機能低下症検査』の導入と患者へのアプローチ方法
高齢化が進むなか、特にシニア層の患者が多いクリニックにおいては、口腔内の機能低下を早期に発見し、適切な管理を行うことが大切です。
一方で、検査方法によって必要となる専用機器や材料費などの原価負担、検査にかかる手間の問題から、検査の導入を見送っているクリニックも少なくありません。
しかし、長期的な医院経営の視点で考えると、検査の導入には多くのメリットがあります。
2018年度の診療報酬改定で保険診療上評価されるようになった、口腔機能低下症に関する検査と管理について、その基礎知識と患者に検査を受けてもらうためのアプローチ方法を解説します。
健康寿命の延伸に向けた口腔機能精密検査
口腔機能低下症とは、加齢をはじめ、さまざまな疾患や障害などが要因となり、噛む、飲み込む、話すといった口腔機能が複合的に低下している状態を指します。
滑舌が悪くなる、食べ物が口に残る、食事中にむせやすくなる、硬いものが噛めなくなるといった症状は、患者自身も「年のせいだから仕方ない」と見過ごしてしまいがちです。
しかし、そのまま放置していると、症状が進行し、咀嚼障害や摂食嚥下障害といった、より深刻な口腔機能障害を引き起こすおそれがあります。
そして、口腔内の健康は、全身の健康とも深くかかわっています。
十分な食事がとれなくなることで栄養状態が悪化するばかりか、それが引き金となって心身の活力が低下するフレイルや、全身の筋肉量が減少するサルコペニアへと進展し、要介護状態に陥るリスクが高まります。
超高齢社会において健康寿命の延伸が社会的な課題となるなか、2018年度の診療報酬改定で、口腔機能低下症に対する検査や継続的な管理が、保険診療上評価されるようになりました。
これにより、これまでの歯の形態回復を中心とした歯科治療に、「口腔機能の維持」という役割が本格的に加わりました。
検査の導入はコストや手間に見合う?
口腔機能低下症の検査を導入する際には、咀嚼能力検査用のグミゼリーや舌圧測定器などの機器・材料を準備する必要があります。
また、検査や記録に一定の時間を要することから、クリニックによっては「コストや手間に比べて算定点数が高くない」と感じるケースもあります。
しかし、口腔機能低下症の検査は、経営の長期的な安定という観点から見ると、継続的な患者管理につながる可能性があります。
口腔機能低下症と診断された患者に対しては、管理計画に基づいて継続的な管理を行なった場合には、所定の機器検査の実施状況に応じて、口腔機能管理料1(90点)または口腔機能管理料2(50点)を毎月算定できます。
一度きりの治療で終わるのではなく、長期的な管理を前提とするため、収益の安定化につながる要素となります。
また、口腔機能の維持や改善には、毎日のトレーニングと定期的な状態確認が不可欠です。
検査をきっかけに患者自身が口腔機能への関心を高め、定期的な受診につながることも期待できます。
定期的な来院を促進できる点は、クリニックとしても大きな利点といえるでしょう。
ほかにも、他院がまだ積極的に取り組んでいないなかで、全身の健康まで見据えたケアを行うクリニックという評価を得ることは、差別化を図るうえでも大きな強みになります。
患者に検査を受けてもらうためには
検査を行える環境を整え、実際に検査を受けてもらうためには、患者に「口腔機能低下症」という概念を知ってもらい、検査の重要性を理解してもらう必要があります。
特に、高齢の患者は自身の機能低下を指摘されることに抵抗を感じる場合があります。
「機能が落ちているから検査しましょう」と伝えるのではなく、「いつまでも美味しく食事を楽しむために、現在のお口の体力を測ってみませんか」といった、前向きな声かけを心がけましょう。
検査を行う際には、その内容を事前に詳しく伝えることも重要です。
初めて受ける検査に対して、患者は「痛いのではないか」「時間がかかるのではないか」といった不安を抱きがちです。
そのため、ゼリーを噛むだけ、舌の力を機械で軽く測るだけなど、日常の動作の延長で負担なく行えることを説明します。
待合室のポスターや、診察台での待ち時間に案内用のツールを渡すなどして、視覚的な情報も交えると理解が深まります。
もちろん、こうした仕組みを定着させるためには、スタッフへの教育が欠かせません。
院内で研修や勉強会を定期的に開催し、歯科医師だけでなく、歯科衛生士や受付スタッフなどを含む全員が正しい知識を持つことが求められます。
口腔機能低下症の検査は、検査方法によっては初期投資や原価といったハードルがあるものの、長期的な視点では患者の健康と医院経営の双方にメリットがある検査です。
地域に根ざしたクリニックづくりのためにも、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2026年8月現在の法令・情報等に基づいています。