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うっかりミスで損害賠償? 仕事中の事故・ミスと責任の境界線

26.04.07
ビジネス【法律豆知識】
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仕事中にうっかりミスをして、会社や取引先に損害を出してしまった……。
そんな事態が発生した際、「自分が全額賠償しなければならないのか」と不安になる方も多いのではないでしょうか。
実は、労働法や過去の判例によると、業務中のミスで発生した損害を従業員が全額負うケースは極めて限られています。
まず会社側が責任を負い、その後に一部を求償するかどうかが検討されるのが一般的な流れです。
今回は、「使用者責任」という仕組みの概要や、判例で認められた責任の境界線、そして従業員が注意すべき状況について解説します。

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会社が前面に立つ「使用者責任」とは

業務中に発生したトラブルで第三者に損害を与えた場合、民法上は会社と従業員の双方が損害賠償責任を負う可能性がありますが、実務上はまず会社が責任を負う形で処理されるのが一般的です。
これは民法で規定される「使用者責任」と呼ばれるものです。
この仕組みは、「報償責任」および「危険責任」という考え方を基盤としています。
これにより、第三者が損害を受けた際には、まず資力のある会社に対して損害賠償を求めることが一般的です。

この使用者責任が適用される際には、いくつかの要件があります。
まず、損害が発生した行為が「事業の執行について」(いわゆる業務の範囲内)行われたものであること。
次に、その行為と損害の間に「相当因果関係」があること。
実務上は、第三者からの損害賠償請求の相手は会社側となるのが一般的です。
また、従業員の行為が「業務の一環」とみなされるかどうかは、その行為の性質や、会社の指示のもとで行われたかどうかなどの事実に基づいて判断されます。
したがって、業務中のミスによって損害が発生した場合であっても、従業員がただちに第三者から直接損害賠償を請求されるケースは実務上少ないとされています。

会社が第三者に対して賠償した後、従業員の過失の程度などを踏まえ、例外的に「求償」として一部を請求するかどうかが検討されることになります。
この求償が行われるかどうかは、ミスの背景や程度、企業側の管理の状況などによって判断されます。
なお、2020年の最高裁判決では、従業員が先に被害者に賠償金を支払った場合に、会社に対してその負担分を請求する「逆求償」も認められました。

ただし、求償が行われる場合であっても、その金額は任意に決定されるものではありません。
過去に、会社が退職した従業員に対して、「業務中に発生した損害の賠償金を支払え」と請求したケースで、裁判所がその請求を棄却、あるいは大幅に制限した事例があります。
これは、「責任制限の法理」に基づくものです。
この事例では、従業員の行為態様や職務内容、会社側の管理体制などを総合的に考慮した結果、「故意または重大な過失による損害」とまでは認められないとして、会社からの請求が否定されました。
この判決は、業務中のミスで損害が発生した場合であっても、会社側が無条件に従業員に賠償を求めることは認められないということを示す重要な例となっています。

従業員が賠償責任を負うのはどんなとき?

では、従業員が賠償責任を負うケースがないかというと、そうではありません。
その基準となるのが、過去の最高裁判決で確立されたポイントです。
このポイントが確立されたのが、1976年の「茨城石炭商事事件」です。
この判決では、業務中に自動車事故を起こした従業員に対する求償について、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」とされました。
この判決は、現在も業務中の損害に関する標準的な考え方とされています。

つまり、たとえば業務中のミスで100万円の損害が発生した場合であっても、会社が「100万円全額を従業員に負担しろ」と求めることは、原則として認められないということです。
実際には、その従業員の過失の程度や、業務の性質、会社側の対策の有無などを踏まえて、適切な負担額が算定されます。
会社側にも管理上の問題があった場合には、従業員への求償額がさらに減額されることもあります。

一方で、従業員が「意図的に」不正な行為を行なった場合には、状況が大きく変わります。
たとえば、横領や情報漏えい、飲酒運転などの極めて悪質な行為は、単なる「うっかりミス」ではなく、犯罪行為に該当する可能性があります。
犯罪行為に該当した場合、民事上の損害賠償請求に加え、懲戒処分や刑事告訴など、厳しい対応をとられることもあります。
企業側としても、不正行為による損害は経営や信頼に直結するため、厳しい対応をとる傾向があります。

仕事中のミスで損害が発生した場合であっても、法律や判例によって従業員側には一定の保護があります。
業務中のミスについては、従業員が全額を賠償することは原則として想定されておらず、過失の程度などを踏まえた限定的な負担にとどまるのが基本的な考え方です。
ただし、意図的な不正行為には重い責任が伴うため、「うっかりミス」と「意図的な不正」の境界線を理解しておくことが、業務を行う際の基本的な知識として重要です。


※本記事の記載内容は、2026年4月現在の法令・情報等に基づいています。