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臨床試験がスタートした『歯生え薬』の実用化は期待できる?

24.12.03
業種別【歯科医業】
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歯周病やう蝕(むし歯)などによって、多くの人は年を重ねるごとに歯を失っていきます。
今までは歯を失うと、入れ歯やブリッジ、インプラントといった治療法で欠損歯を補ってきました。
しかし、研究が進められている歯の再生治療薬、いわゆる「歯生え薬」によって、これまでの常識が大きく変わるかもしれません。
ニュースなどでも大々的に報じられて注目を集めている歯生え薬の現在地と、その先の実用化の可能性などについて探っていきます。

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人は生涯でどのくらいの歯が残るのか?

人は歯が20本あれば、食生活にほぼ満足することができるといわれています。
すべての人が生涯にわたって自分の歯で食べる楽しみを味わえるようにするため、1989年から、厚生労働省(当時は厚生省)と日本歯科医師会によって「8020運動」が続けられてきました。
8020運動とは「80歳になっても20本以上自分の歯を保つ」ように促す啓発活動のことで、2022年の8020達成者は51.6%と非常に高い水準だったことがわかっています。

しかし、20本はあくまで最低限必要な歯の本数です。
人間の永久歯は親知らずの4本を含めて32本ですが、この32本を可能な限りキープし続けなければいけません。
厚生労働省の「令和4年歯科疾患実態調査」によると、前期高齢者になる一歩手前の60~64歳の歯の平均本数は24.8本でした。
つまり、多くの人はこの年代までに約7本の歯を失っていることになります。

歯の喪失は、歯周病や虫歯のほかに、事故や外傷、歯ぎしりや食いしばりなど、さまざまな原因が考えられます。
失ったまま放置してしまうと、噛み合わせや歯並びが悪くなったり、抜けた歯の反対の歯が伸びてしまったりといった悪影響が出るため、歯を失った人はすぐに歯科クリニックを受診する必要があります。

そして、失う歯の本数が増えていくにしたがって、欠損歯を補うための治療も、ブリッジ、部分入れ歯、総入れ歯と、サイズが大きくなっていきます。
これらの治療によって、歯を失ってもこれまでと同じように物を食べることができるようになりますが、義歯には耐用年数があり、手入れもしなければいけません。
また、機能性や見た目などは当然ながら本物の歯には及びません。

歯生え薬の開発目的と実用化の可能性

乳歯から永久歯に生え変わったように、「失った歯が再び同じ場所から生えてきたら」と思ったことがある人も多いのではないでしょうか。
そんな夢のような治療がもしかしたら、近い将来実現するかもしれません。

2024年9月、大阪の医学研究所北野病院や京都大学医学部附属病院などからなる研究グループは、「歯生え薬」の開発に向けた臨床試験(治験)をスタートさせました。
歯生え薬は、生まれつき永久歯が6本以上生えてこない疾患「先天性無歯症」の患者への適用を目指しており、治験については、まず30歳以上65歳未満の奥歯を失った男性を対象に行われ、その後は先天性無歯症の子どもを対象に実施される予定です。

先天性無歯症は歯の元になる歯胚が育たないために起きる疾患で、その原因ははっきりとはわかっていません。
研究グループは、歯が生えるのを抑制する「USAG-1タンパク」を発見し、その機能を抑制する核酸製剤を先天性無歯症のマウスに投与したところ、歯の形成が回復することを確認しました。

歯生え薬は現在、2030年頃までの実用化を目指して開発が進められており、先天的に歯が6本以上生えてこない先天性無歯症患者への適用が行われた後は、先天的に歯が1~5本以上生えてこない、軽度の先天性無歯症患者への展開が予定されています。
そして、先天的ではない、後天的に歯を失った人への適用にも大きな期待が寄せられています。

近年は乳歯や親知らずなどから「歯髄幹細胞」を採取して、神経や血管を伴う歯髄を失った歯に移植する「歯髄再生治療」が臨床研究を経て、すでに実用化されています。
歯髄とは痛みを伝達したり、歯に水分や栄養を届けたりする歯の中に存在する大切な組織のことで、虫歯の悪化などによる根管治療によって取り除かれます。

8020運動で推進されているように、患者が自分の歯を生涯にわたって保てるように最大限努めましょう。
もし歯髄を失ってしまった場合は移植し、歯そのものを失ってしまった場合は、再生治療によって、乳歯と永久歯に続く『3番目の歯』を生やすというのが、未来の歯科治療のスタンダードになっていくかもしれません。


※本記事の記載内容は、2024年12月現在の法令・情報等に基づいています。