わかもり税理士事務所

『カスハラ』と『感染症』が追加! 労災認定基準を理解しておく

23.10.24
ビジネス【人的資源】
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『労災』とは労働災害の略で、労働者が就業中や通勤中にこうむった負傷や疾病、死亡などのことを指します。
労災が労働基準監督署長によって認定されると、被災した労働者に対して、国が給付金などの補償を行います。
この労災を認定するための基準を『労災認定基準』と呼びます。
2023年9月1日には、心理的負荷による精神障害の労災認定基準にカスタマーハラスメント(以下カスハラ)や感染症等のリスクが新たに追加されることになりました。
労災が起きた際に迅速に対応ができるように、改正された労災認定基準について理解を深めておきましょう。
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ケースごとにある労災認定基準

労災が発生した場合、事業者は労災保険給付の請求を労働基準監督署長宛で行う必要があります。
この請求を行うためには、労災の認定基準を理解しておかなければいけません。

事故による怪我や死亡が、労災として認められるかは『業務遂行性』と『業務起因性』の2つの要件から判断されます。
まず、業務遂行性とは、事故が就業中であったか否かによって判断されることで、就業中であることに加え事業主の支配下や管理下という観点に基づいて判断される事故なども認められます。
たとえば、始業前や休憩中、出張の移動中に起きた事故も該当します。
業務起因性とは、業務に起因して災害が発生し、その災害によって労働者に傷病等が発生したという因果関係をもとに判断されます。
これら2つの判断基準を満たすことで労災が認定されます。

一方で、事故ではないものの、過労などが原因で従業員が脳内出血やくも膜下出血、脳梗塞や心筋梗塞などを患うケースもあります。
こうした脳や心臓の疾病については、業務による明らかな過重負荷があったかどうかが、労災の認定基準になります。

そして、身体の怪我や疾病だけではなく、うつ病や適応障害など、従業員の心理的負荷による精神障害に対しても労災の認定が行われます。
従業員の精神疾患が労災と認定されるには、以下の要件を満たす必要があります。

・対象疾病を発病していること
・対象疾病の発病前の概ね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
・業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと   など

ここで、心理的負荷による精神障害に対する労災認定基準のポイントになるのが「業務による強い心理的負荷」という部分です。
心理的負荷とはストレスのことで、労災と認められるためには、どのような「強いストレス」があったのかを明確にしなければいけません。

ストレスの度合いは評価表を元に判断する

心理的負荷の度合いは、『業務による心理的負荷評価表(以下、心理的負荷評価表)』に沿って判断します。
心理的負荷評価表は「特別な出来事」と「特別な出来事以外(具体的出来事)」に分けられます。

該当する状態が特別な出来事(心理的負荷が極度なもの)に起因するものだった場合は、心理的負荷の総合評価が『強』だったと判断されます。
具体的には、「生死にかかわる極度の苦痛を伴う、または永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気や怪我をした」ケースや「本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などセクシュアルハラスメントを受けた」ケースなどです。
そのほか、「発病直前の1カ月に概ね160時間を超えるような極度の長時間労働を行った」場合などもあります。
このような特別な出来事に該当する場合は、強いストレスを受けているとされ、労災に認定される可能性が高くなります。

また、特別な出来事に該当しない場合は、具体的出来事でストレスの度合いを判断します。
具体的出来事は、出来事の類型ごとに「業務に関連し、違法な行為や不適切な行為等を強要された」や「同僚等から、暴行またはひどいいじめ・嫌がらせを受けた」など、29種類に分類されており、それぞれストレスの度合いが「弱」「中」「強」に設定されています。
この総合評価で、ストレスの程度を確認し、総合的に「強」と判断されれば、労災と認定される可能性が高くなります。

具体的出来事に追加されたカスハラと感染症

2023年9月1日に、この心理的負担による精神障害の認定基準が改正されました。
改正に伴い、業務による心理的負荷評価表が見直しされ、具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(いわゆるカスタマーハラスメント)」と、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」が追加されました。
この改正は、カスハラ被害の増加や新型コロナウイルス感染拡大などを背景に、社会情勢の変化をふまえたものといえるでしょう。

今後はカスハラや、感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したことに起因する精神障害なども、労災と認められる可能性があります。
特に、企業においてはパワハラやセクハラと同等に、カスハラ対策に取り組むことが、労災を防ぐ重要なポイントになるでしょう。

日本労働組合総連合会が2022年に行った『カスタマー・ハラスメントに関する調査2022』によると、調査対象者数のうち67.5%の人が直近3年間でカスハラを受けたと回答しました。
そして、カスハラを受けたことにより「出勤が憂鬱になった」「心身に不調をきたした」という、事業主としても見逃すわけにはいかない従業員の不調もあげられました。
同調査では、36.9%が直近5年間でのカスハラの発生件数が増えたとも回答しています。

どのような行為がカスハラに該当するのかなど、理解や周知が足りていない場合は、厚生労働省が作成した『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』などを参考に、社内でカスハラに対する周知を進めていきましょう。

各種労災の認定基準は、社会情勢や労災の請求件数などから医学的知見などをふまえて、随時改正されます。
企業としては、労働者が安心して業務を行えるように、また労災が発生しないように日頃から労働環境の整備・改善を行っていきましょう。


※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。