無料で公開されている『人流データ』の活用法
人々がどこに、どれくらい集まるのかを把握しておくことは、店舗の集客や事業の経営戦略を立てるうえで、大きな武器になります。
この人々の流れを数値として示すのが「人流データ」と呼ばれるデータです。
国や自治体が人流に関する情報を無料で公開しているケースもあり、近年は誰でも気軽に利用できる環境が整いつつあります。
観光客数の推移や鉄道の乗降データ、特定エリアの滞在人口など、無料で入手できる人流データの種類や、実際の活用方法などを解説します。
人流データの可視化や分析ができるツールも
人流データとは、人々がどこにどれくらい集まり、どのように移動しているかを示す情報のことを指し、スマートフォンのGPS情報やWi-Fiの接続情報、交通系ICカードの利用履歴、鉄道やバスの乗降客数などをベースに集計されます。
人流データは都市計画において混雑緩和や防災対策に役立ちますし、地域振興にも活かされています。
コロナ禍では感染症対策として、人々の移動を可視化する取り組みなども行われました。
また、マーケティングの分野では、商圏分析やターゲット層の来訪傾向、観光客の流れなどを把握するために人流データが活用されています。
さまざまな領域で活用されている人流データは、有料サービスのイメージが強いかもしれませんが、実は無料で公開されているデータも少なくありません。
無料で公開されているものの一つに、国や自治体、研究機関が公共の目的で収集した人流データがあります。
たとえば、国土交通省は、2019年~2021年を対象に、全国の「1kmメッシュ別の滞在人口データ」と「市区町村単位発地別の滞在人口データ」をオープンデータとして公開しています。
「1kmメッシュ別の滞在人口データ」とは1km四方の区画=メッシュごとに、「どれくらいの人が滞在しているか」を推計して示したデータのことで、マーケティングの分野においては、商業施設や観光地の集客分析、広告配信の最適化などに役立てることができます。
これらのデータは、携帯電話端末などの位置情報データから収集したもので、オープンデータとして一般に公開されているため、企業や個人が自由に使うことができます。
ほかにも、国土交通省は、簡単な操作で人流データの可視化および分析が行える「人流データ可視化ツール2.0」というソフトウェアを2024年4月に一般公開しました。
ソフトウェアは無料で利用できるうえに、改編も自由なオープンソースなので、ある程度の知識があれば、より効率的な人流データの可視化と分析が可能になります。
まだまだある! 無料公開の公的な人流データ
観光庁が提供している「観光統計データ」は、国内外の旅行者数や訪問地の傾向を把握できる人流データです。
これは地域観光事業者にとって、自社が狙うべき市場を知るうえで大きなヒントになるでしょう。
また、国土交通省のサイトでは、鉄道や道路の利用状況に関する統計が公開されており、駅周辺の人の動きや交通量の増減を把握するのに活用できます。
特に東京都や大阪市などの大都市圏では、独自に人流データを集計しており、繁華街や観光スポットごとの人出の変化を確認できます。
さらに、一部の研究機関や大学が公開しているデータセットには、新型コロナウィルス感染症拡大期に収集した移動傾向の調査結果なども含まれており、社会変化に伴う人流の特徴を知ることもできます。
ほかにも、多くの自治体が独自に人流調査を行い、特定エリアの滞在人口や時間帯別の推移を公開しています。
こうしたデータを活用することで、コストをかけずに実用的な情報を得ることができます。
人流データの活用方法と注意点
無料で公開されている人流データを適切に活用するためには、まず自社の目的を明確にすることが重要です。
新規出店を検討している飲食店であれば、候補地周辺の人流データを調べることで「昼と夜の人出の違い」や「平日と休日の来訪者数の差」を把握できます。
観光業であれば、訪問客のピークシーズンをデータから確認し、イベントやキャンペーンの時期を最適化できます。
小売業の場合は、最寄り駅の利用者数や周辺の滞在人口を確認することで、売上予測の基礎データにすることも可能です。
重要なのは、データそのものを分析して終わりにせず、自社の戦略や施策にどのように結びつけるか、よく考えることです。
具体的な数値と現場の実感を照らし合わせながら使うことで、より高い効果を得ることができます。
ただし、一般公開されている無料のデータは、有料のサービスに比べて精度や更新頻度が限定的な場合もあります。
そのため、詳細な個人単位の動きやリアルタイム性を求める用途には適していません。
また、人流データはあくまで「人の数」を示すものであり、購買意欲や属性までは直接わからない点も留意しておく必要があります。
実際のマーケティングでは、顧客アンケートや販売実績などほかの情報と組み合わせて活用することで、より精度の高い分析が可能になるでしょう。
※本記事の記載内容は、2025年10月現在の法令・情報等に基づいています。