わかもり税理士事務所

売上や融資にも悪影響?『最低賃金法』を守らないリスク

25.10.28
ビジネス【労働法】
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経営改善のために、多くの企業が人件費の削減に取り組んでいます。
しかし、人件費を削減したいからといって、従業員に支払う賃金が国の定める最低賃金を下回ってしまうと、違法経営として厳しく罰せられてしまいます。
最低賃金法に違反した場合、法的な罰則はもちろんですが、それ以上に企業経営全体に深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。
世間一般から最低賃金法を守らない、いわゆる『ブラック企業』とみなされることで、さまざまな問題が生じるリスクがあるでしょう。
最低賃金を下回った企業が負うことになるリスクについて解説します。

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最低賃金の基礎知識と法的ペナルティ

最低賃金とは、国が定めたすべての労働者に最低限支払うべき賃金の額のことで、特定の地域に適用される「地域別最低賃金」と、特定の産業に適用される「特定最低賃金」の2種類があります。
地域別最低賃金は原則として毎年改定され、2025年度は全国平均で1,121円となりました。
地域別に見てみると、最高額が東京の1,226円、最低額は高知、宮崎、沖縄の1,023円で、初めてすべての都道府県で1,000円を超えました。

そして、この最低賃金を守ることを定めた法律が「最低賃金法」です。
最低賃金法は、企業に対して、労働者の賃金が定められた最低賃金よりも低くならないよう義務づけており、企業が最低賃金を下回る賃金で労働者と合意したとしても、その合意は法律上無効となり、最低賃金額での契約が結ばれたとみなされます。

もし、企業が最低賃金法に違反すると罰則が科せられる場合があります。
最低賃金法では、使用者が地域別最低賃金の定めに違反した場合、50万円以下の罰金に処せられることが定められており、1人の労働者に対して違反があった場合でも適用される可能性があります。

さらに、法的な罰則だけでなく、行政指導や行政処分の対象にもなります。
違反企業は労働基準監督署の立ち入り調査により助言指導や是正勧告などの行政指導が行われ、是正報告書の未提出など改善が見込まれない場合や悪質な場合などは罰則の適用、労働基準関係法令違反として書類送検に加え、厚生労働省や各都道府県労働局のホームページで企業名公表となります。

企業イメージの低下や人材確保への悪影響も

最低賃金法に違反した企業は、労働者に対して本来支払うべきだった最低賃金との差額である「未払い賃金」を支払わなければなりません。
労働者がみずから未払い賃金を請求してきた場合、企業は過去にさかのぼって差額分を支払う義務があります。

未払い賃金の請求は、たった1人の労働者からの請求であっても、その影響は決して小さくありません。
未払い期間が長ければ、金額は想像以上に膨らみますし、未払い賃金の請求が行われたことがほかの従業員に知れ渡れば、連鎖的に請求が起こる可能性もあり、その結果、企業の資金繰りを大きく圧迫することになります。

さらに、従業員との関係も悪化し、訴訟に発展するケースも考えられます。
その場合は、本来の未払い賃金に加えて、遅延損害金や弁護士費用なども負担することになる場合もあり、企業の経営を揺るがす事態に発展しかねません。

また、最低賃金法違反は、労働基準関係法令違反に係る公表事案として、厚生労働省のWebサイトに掲載されることがあるため、もし公表された場合は、企業イメージや売上の低下につながるおそれがあります。
現代はインターネットやSNSを通じて、企業の評判はあっという間に広まります。
もし、自社が最低賃金を守っていないことが知れ渡れば、『ブラック企業』というレッテルを貼られ、消費者からの信頼も失う可能性があるでしょう。
特に、若年層や社会的責任を重視する消費者は、企業の倫理観を厳しく見ています。
たとえ高品質な商品やサービスを提供していたとしても、企業の労働環境が不健全であれば、そのブランド価値は大きく傷つきます。
一度失った信頼を取り戻すことは非常にむずかしく、長期にわたる経営努力が必要となることに留意が必要です。

当然、最低賃金違反をした企業には、新しい人材が集まりにくくなります。
求職者は企業の口コミサイトやSNSで、その企業の実態を綿密に調べており、最低賃金違反の事実が発覚すれば、優秀な人材ほど、そのような企業を避ける傾向にあります。

同時に、信用調査にも悪影響を与え、融資や新規取引にマイナスの影響が出る可能性もあります。
金融機関は融資の可否を判断する際、企業の財務状況だけでなく、信用情報やコンプライアンス遵守の状況も厳しく審査します。
最低賃金法違反は企業のコンプライアンス意識が低いとみなされ、信用調査において大きなマイナス要因となります。
最低賃金法違反が発覚すれば、新たな取引先との新規取引においても、取引を断られるリスクが高まります。

このように、最低賃金法に違反すると法的な罰則だけにとどまらず、企業イメージの低下や人材確保の困難、信用力の低下といった多岐にわたる深刻なリスクが生じます。
企業の健全な経営には、最低賃金法を正確に理解し、法律を遵守するという姿勢が大切です。


※本記事の記載内容は、2025年10月現在の法令・情報等に基づいています。