見直しが検討されている『年収の壁』をあらためて理解する
年収が一定額を超えると、税金や社会保険料などの負担が生じるため、パートやアルバイトとして働く人たちの多くは一定額を超えないように働く時間をみずから調整しています。
この負担が生じる境目となる額のことを壁にたとえて、『年収の壁』と呼んでいます。
2024年の国会では、この年収の壁が度々議題にあがりました。
しかし、一口に年収の壁といっても、年収の額や負担の種類によってさまざまな『壁』があり、有名な「103万円の壁」のほかにも、「106万円の壁」や「130万円の壁」などが存在します。
見直しが検討されている今こそ、年収の壁について理解を深めておきましょう。
税制上の壁である100万円の壁と103万円の壁
パートやアルバイトの人たちが年収の壁を超えてしまうと、税金や社会保険料などの負担が増えて、自分や配偶者の手取りが減ることになってしまいます。
そのため、手取りが減らないように、勤務日数や就業時間などをみずから調整し、年収の壁を超えないようにする人がほとんどです。
この年収の壁については問題点も多く、パートやアルバイトの『働き控え』によって、事業者がほかから労働力を確保する必要が出てくるだけでなく、本人たちの労働意欲も低下してしまいます。
人手不足を深刻化させ、働くモチベーションを奪う年収の壁は、近年の賃上げの機運とも相まって、時代にそぐわないものになってきました。
近年は、国会でも年収の壁について、見直しの議論も盛んに行われています。
こうした年収の壁を巡る動向を把握するには、基本を押さえておく必要があります。
実は年収の壁は6つあり、大きく「税制上の壁」と「社会保険上の壁」に分けることができます。
まず、一番金額の低い壁が「100万円の壁」です。
100万円の壁は税制上の壁の一つで、パートやアルバイトの給与収入がある人の年収が100万円を超えると、超えた分に対して10%の住民税がかかるというものです。
住民税は住んでいる都道府県や市区町村に納める税金のことで、逆に年収が100万円を超えなければ住民税がかからず、すべての額が手取りになります。
次に、同じく税制上の壁に「103万円の壁」があります。
103万円の壁は、年収が103万円を超えると、超えた分に対して所得税がかかるというものです。
給与所得者は年収103万円までであれば、48万円の基礎控除と55万円の給与所得控除が受けられるため所得税がかかりませんが、控除の合計額である103万円を超えると所得税がかかります。
たとえば、年収が120万円の場合、103万円を差し引いた17万円に対して、所得に応じた税率の所得税が課税されます。
また、パートやアルバイトの配偶者が会社員の場合は、会社が設定している扶養手当が受け取れなくなってしまう可能性もあります。
ただし、この103万円の壁については、現在、ボーダーラインとなる額の引上げが検討されています。
社会保険上の壁である106万円の壁と130万円の壁
100万円の壁と103万円の壁は税制上の壁でしたが、続いて金額の大きい「106万円の壁」と「130万円の壁」は社会保険上の壁になります。
従業員51人以上の企業に勤務するパートやアルバイトは、月収が8万8,000円以上で、週の労働時間が20時間以上などの要件を満たすと、配偶者の扶養から外れて、勤務先の社会保険に入ることになります。
基準となるのはこの月額8万8,000円ですが、一般的には年収106万円の壁といわれています。
年収が106万円未満であれば、被扶養者として配偶者の勤務先の社会保険に入ることができ、保険料の支払いも発生しませんでした。
しかし、年収が106万円を超え、配偶者の扶養から外れて自身の勤務先の社会保険に入ることになると、厚生年金や健康保険といった社会保険料の支払いが発生するため、手取りが減ってしまいます。
また、106万円の壁は従業員51人以上の企業に勤務するパートやアルバイトを対象としたものでしたが、従業員が50人以下の企業に勤務している場合でも、年収が130万円を超えてしまうと、配偶者の扶養から外れて、自分の勤務先の社会保険に入る必要があります。
最低賃金が上昇するなかで、長年その額が変わらなかった社会保険上の壁も問題視されてきました。
また、現在、厚生労働省では106万円の壁について、賃金の要件を撤廃する方針での調整を行なっています。
働き控えを防ぐために企業側が保険料を多く負担する案も検討されており、撤廃時期なども含めて、正式な発表を待つ必要があります。
最後に、税法上の壁として「150万円の壁」と「201万円の壁」があります。
パートやアルバイトの年収が150万円未満であれば、配偶者の配偶者特別控除として所得税の控除を38万円まで、住民税の控除を33万円まで受けられますが、150万円を超えてしまうと控除額が減り始め、年収が約201万円を超えると、控除額はゼロになります。
配偶者が最大で71万円の控除を受けるためには、年収を150万円未満にしなければいけないことになります。
このように年収の壁にはさまざまな種類があり、見直しが進められている壁もあります。
今後の動向を注視しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。